お正月やお盆に実家へ帰ったとき、台所の引き出しを開けたら、薬の袋がどっさり残っていた。
そんな経験をされた方がいるかもしれません。「ちゃんと飲んでるよ」と言っていたのに、どういうことだろう。驚きますし、少し不安にもなりますよね。
飲み忘れの記事では、薬を飲んでいるご本人に向けて飲み忘れたときの対処をお話ししました。今回はご家族向けの回です。離れて暮らす親や、一緒に暮らす家族の薬が心配になったとき、どう気づいてどう支えればいいのかをお話しします。
薬の管理は、実はかなり「頭を使う」作業
毎日の薬をきちんと続けるのは、思っている以上に複雑な作業です。
- 何種類もある薬を、どれを・いつ・何錠飲むか覚えておく
- 飲んだかどうかを覚えておく
- 薬がなくなる前に受診や薬局に行く
- 体調が悪いときにどうするか判断する
これは料理の段取りやお金の管理と同じように、記憶や段取りの力をたくさん使う作業です。そのため、年齢を重ねたりもの忘れが増えてきたりすると、生活の中でも早めに影響が出やすいことが知られています。
逆に言えば、薬の管理の様子はご家族が変化に気づくきっかけにもなります。 ただし、薬の飲み残しがある=認知症、というわけではありません。薬が多すぎる、飲みにくい、副作用が気になって自分で減らしている、など理由はさまざまです。
ご家族が気づけるサイン
次のような様子があれば、薬の管理がうまくいっていないのかもしれません。
| 気づくポイント | 具体的な様子 |
|---|---|
| 薬が余っている | 薬の袋がたまっている。同じ薬が何か月分も残っている |
| 薬が足りない | 次の受診より前に薬がなくなっている(多く飲んでいる可能性) |
| 言っていることと合わない | 「飲んだ」と言うのに、その日の分が残っている |
| 飲み方がばらばら | 朝の薬を夜に飲んでいる、袋を開けたまま放置している |
| 体調の変化 | 血圧や血糖が急に不安定になった、ふらつきや眠気が増えた |
「薬が余っている」より、実は「足りない」ほうが心配なことがあります。
飲み忘れの記事でもお話ししたように、薬は「多く飲む」ほうが危ないことが多いからです。飲んだことを忘れてもう一度飲んでしまうと、血圧の薬なら下がりすぎてふらついたり糖尿病の薬なら低血糖を起こしたりすることがあります。
睡眠薬も、夜中のふらつきや転倒につながりやすい薬のひとつです。気になる方は「「眠れないから睡眠薬」の前に知っておきたいこと」もご覧ください。
-1024x572.jpg)
「仕組み」で支える方法
大丈夫です。薬の管理は、本人の努力に頼らなくても、仕組みでかなり支えられます。
① 薬を1回分ずつまとめてもらう(一包化)
朝・昼・夕などの1回に飲む薬を、1つの袋にまとめてもらう方法です。袋に日付や「朝」「夕」と印字してもらえることもあります。どの薬を何錠、と考えなくてよくなるのでそれだけでかなり飲みやすくなります。
主治医か薬局に「薬を1回分ずつまとめてもらえませんか」と相談してみてください。
錠剤の飲み込みにくさがある場合は、口の中で溶ける「OD錠」という形の薬もあります。薬剤師さんに聞いてみてください。
② お薬カレンダー・ケースを使う
壁かけのポケット式カレンダーや曜日ごとに分かれたケースに、1週間分をセットしておく方法です。飲んだかどうかがひと目でわかるので、ご家族が電話で「今日のポケット、空になってる?」と確認することもできます。
セットするのは、ご家族や後で紹介する薬剤師さん・訪問看護師さんなど手伝える人が担当すると安心です。
③ 飲む回数や種類を減らせないか相談する
1日3回の薬を1日1回にまとめられないか。何種類かを1つにまとめた薬(配合剤)にできないか。そもそも今も必要な薬か。
薬の数や回数が減ると管理はぐっと楽になります。 年齢とともに薬が増えてきた方は、ポリファーマシーの記事もあわせて読んでみてください。
④ 薬剤師さんに自宅へ来てもらう
あまり知られていませんが、通院が難しい方などでは薬剤師さんが自宅を訪問して薬の整理や飲み方の確認をしてくれる仕組みがあります。
- 残っている薬を整理してくれる
- お薬カレンダーへのセットを手伝ってくれる
- 飲めているか、副作用が出ていないかを確認して、主治医に伝えてくれる
介護保険や医療保険で利用できる場合がありますが、費用は保険の自己負担分(1〜3割)がかかります。主治医の指示が必要になるので、主治医・かかりつけの薬局・ケアマネジャーのどなたかに「家に来てもらえる薬剤師さんはいますか」と聞いてみてください。
⑤ 介護サービスの中で確認してもらう
デイサービスに通っている日はそこで飲む、訪問看護や訪問介護のときに飲めたか確認してもらう、など、すでに使っている介護サービスに服薬の確認を組み込むこともできます。ケアマネジャーさんに相談してみてください。
ご本人との話し方
ここがいちばん難しいところかもしれません。
「ちゃんと飲めてないじゃない!」と言いたくなる気持ちはよくわかります。でも、薬の管理を指摘されることは、ご本人にとってとても傷つくことでもあります。何十年も自分で管理してきたことを、子どもに取り上げられるように感じてしまうのです。
いくつか、伝え方の工夫を挙げてみます。
- 責めない:「飲めてない」ではなく「薬の数が多くて大変だよね」と、薬の側の問題として話す
- 取り上げない:全部を家族が管理するのではなく、「セットだけ手伝うね」と一緒にやる形にする
- 専門家の言葉を借りる:「先生(薬剤師さん)が、まとめたほうが飲みやすいって言ってたよ」と伝えると、受け入れやすいことがある
- できていることを認める:「朝の分はちゃんと飲めてるね」と、できている部分に目を向ける
家での様子を、主治医に教えてください
診察室では医師は家での様子を見ることができません。
「薬はちゃんと飲めていますか?」と聞かれて「はい」と答えていても、実際は残薬がたくさんある、ということは珍しくありません。ご本人に悪気があるわけではなく、本当に飲めているつもりのこともあります。
だからこそ、ご家族からの情報はとても貴重です。
- 薬がどのくらい余っているか(残っている薬をそのまま受診のときに持っていくのがいちばん確実です)
- 家で困っている様子
- 体調で気になる変化
受診に付き添えない場合は、メモに書いてご本人に持たせる、お薬手帳のメモ欄に書いておく、などの方法もあります。
心配なことがあれば、主治医やケアマネジャーに相談してみてください。
明日からできること
いきなり全部は変えなくて大丈夫です。まずは1つだけ。
次に親御さんと会ったとき(または電話のとき)、「薬、余ってない?」と一緒に確認してみてください。
責めるためではなく、困っていないかを知るためです。もし余っていたら、その薬をそのまま次の受診か薬局に持っていくところから始めてみましょう。
参考文献・引用元
本記事は以下のガイドラインを参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。
【参考ガイドライン】
- 日本老年医学会『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025』
- 厚生労働省『高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)』(2018)
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます。
「薬が余ってるから今回は1週間分減らして」「薬が足りないので早く来ちゃいました」
こういった言葉は私の中では要注意でよくよく確認するようにしています。ただ10分程度の診察時間ではすべて拾いきれないのも事実です。些細なことでいいので、「あれ?薬飲めてるのかな?」と思うことがあるなら伝えていただけると助かります。
これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

