【医師が解説】薬が増えてきた……それって大丈夫?「ポリファーマシー」を知ろう

「ポリファーマシーについて知ろう/薬が多くて飲み忘れる」のキャッチコピーが添えられたアイキャッチ画像。手のひらに山盛りになった、白・黄色・茶色など色とりどりの錠剤やカプセルの写真。 薬の知識

この記事はポリファーマシーについての理解を深めていただくことを目的としています。ご自身の判断で薬の服用を中止したり、量を変更したりすることは絶対におやめください。

最終的な治療方針は、必ず主治医とよく相談の上で決めてください。この記事が主治医との会話をより実りあるものにするきっかけになれば嬉しいです。

「先生、私の薬、多すぎませんか?」

外来でこう聞かれることがあります。逆に「この薬は効いている気がするから減らしたくない」とおっしゃる方もいます。どちらのお気持ちもよくわかります。

内科で血圧の薬、整形外科で痛み止め、眠れないからと心療内科で睡眠薬。気がつけば薬の種類がどんどん増えていた、という経験はありませんか?

薬が増えること自体は必ずしも悪いことではありません。でも、「今の自分に本当に全部必要なのか」を定期的に確認することには大きな意味があります。

この記事では薬が増えていく仕組みと、主治医と一緒に「薬の棚卸し」をするためのヒントをお話しします。

ポリファーマシーって何?

ポリファーマシーとは一般的に5~6種類以上の薬を同時に使っている状態を指します*1

ただしここで大事なポイントがあります。薬の数が多い=悪い、ではありません

たとえば糖尿病と高血圧と脂質異常症を持っている方は、それぞれに必要な薬を飲めば5~6種類になるのは珍しくありません。これは「必要な多剤併用」です。

問題なのは、「必要のない薬」や「かえって害になっている薬」が紛れ込んでいる状態です。これを「問題のあるポリファーマシー」と呼びます。

つまり大切なのは薬の「数」ではなく、1つ1つの薬が今の自分に本当に必要かどうかです。

なぜ薬は増えていくの?

① 病気が増えれば薬も増える

年齢とともに、高血圧、糖尿病、骨粗しょう症、不眠……と病気が増えていきます。それぞれの病気に対して薬が出されれば自然と薬の数は増えていきます。これはある意味で仕方のないことです。

② 複数の病院にかかっている

内科、整形外科、皮膚科、眼科…。複数の診療科にかかっていると、それぞれの医師がそれぞれの判断で薬を出します。それぞれの医師が他の診療科で出ている薬を十分に把握できていないこともあります。。

前回のお薬手帳の記事でもお話ししましたが、こういうときにお薬手帳が力を発揮します。すべての薬が1冊にまとまっていればどの医師でも全体像を確認できるからです。

③ 「処方カスケード」という落とし穴

実は薬が増える原因の中でも特に注意したいのが、「処方カスケード」と呼ばれる現象です*1

これはある薬の副作用が「新しい症状」と間違えられて、さらに別の薬が追加されてしまうという連鎖のことです。

具体例で見る処方カスケード

たとえば血圧の薬(カルシウム拮抗薬)を飲み始めたら、足がむくむようになった。そのむくみを「新しい症状」として、利尿薬(むくみを取る薬)が追加された。ところが利尿薬の副作用でミネラルのバランスが乱れてそれを補う薬が開始された。

もともとの足のむくみは薬の副作用だったのに、新しい病気だと思われて薬が次々に増えてしまった。これが処方カスケードです。

この例では医師が原因薬を見直すことで、後から追加した薬の一部が不要になる可能性があります。

④ 「なんとなく続いている」薬がある

入院中に始まった胃薬、数年前のつらい時期に出された睡眠薬、以前の症状に対して出された痛み止め…。症状が落ち着いた後も「なんとなく」続いている薬はありませんか?

よくある例が胃薬です。痛み止めと一緒に「胃を守るため」に出されたのに、痛み止めをやめた後も胃薬だけがずっと続いている、というケースは実際の外来でも非常に多いです。

薬が多いと何が問題なの?

副作用のリスクが高くなる

薬の数が増えるとそれだけ副作用が出る確率も上がります。そして、薬の数が増えるほど薬同士が影響し合う「相互作用」のリスクも高まります。

飲み間違い・飲み忘れが増える

「朝3錠、昼1錠、夕4錠、寝る前2錠」

薬の数が増えるほど飲み方は複雑になり飲み忘れや飲み間違いが起きやすくなります。飲み忘れが増えれば、せっかくの薬の効果も十分に発揮されません。

年齢とともに薬の効き方が変わる

もう1つ知っておいていただきたいのは、年齢を重ねると薬の効き方が変わるということです*2

腎臓や肝臓の働きが少しずつ低下すると薬が体の中に長く残りやすくなります。若い頃はちょうどよかった量が、年齢を重ねた今では「効きすぎ」になっていることもあるのです。

だからこそ、今の自分の体に合った量になっているかを定期的に確認することが大事なのです。

「薬を減らしたい」人も「減らしたくない」人も

「減らしたい」と思っている方へ

「薬はできれば少ないほうがいい」「体に悪いものは減らしたい」——その気持ちはとてもよくわかります。

ただ大事なことが1つあります。自己判断で薬をやめるのは危険です。たとえば血圧の薬を急にやめると血圧が跳ね上がることがありますし、血液をサラサラにする薬を勝手にやめると脳梗塞のリスクが上がることがあります。

減らせるかどうか、減らすならどの薬からか。これは必ず主治医と一緒に考えるべきことです。

「この薬って本当に必要ですか?」と聞くのは、失礼なことではありません。むしろ医師としてはありがたい質問です。

「減らしたくない」と思っている方へ

「この薬を飲み始めてから調子がいい」「効いている気がするから続けたい」。これもよくわかります。

ただ1つだけ考えてみてほしいことがあります。その薬を始めたとき、どんな症状があったか覚えていますか? その症状は今も続いていますか?

もしかするとすでに症状が改善して、薬がなくても大丈夫な状態になっているかもしれません。「試しに少し減らしてみて、問題があればまた戻す」という方法もあります。

減薬は「やめる」ではなく「試してみる」

薬を減らすこと(減薬・減処方)に不安を感じる方は多いです。でも、減薬は一度やめたら終わり、ではありません

医師が薬を減らすときはいきなりゼロにするのではなく、少しずつ量を減らしたり、1種類だけ試しにお休みしてみたりします。そのうえで体調に変化がないかを一緒に確認していきます。

もし減らして調子が悪くなれば、また元に戻せばいいのです。「減薬はお試し」——そう考えると、少し気が楽になりませんか?

主治医に相談するときのヒント

「薬の見直し」に興味はあるけれど、何をどう伝えたらいいかわからない——そんなときのために、診察室で使えるフレーズをいくつかご紹介します。

高齢者がよく口にする3つの言葉に医療者が応えるイラスト。
①「この薬は何のために飲んでいるんでしたっけ?」と薬瓶を見て困る女性に医師が解説、
②「飲み忘れが多くて困っています」と訴える男性に医師が1日1回の薬を提案、
③「家に薬がたくさん余っています」と気づいた家族が薬剤師に相談する場面。

「私の薬、全部まだ必要ですか?」

ストレートですがこれが一番伝わります。医師も日々の診察の中で「この薬まだいるかな」と思いながら、患者さんから話が出るのを待っていることもあります。

「この薬は何のために飲んでいるんでしたっけ?」

薬の目的を確認することで今の自分に必要かどうかが見えてきます。目的がはっきりしない薬は見直しの候補になるかもしれません。

「飲み忘れが多くて困っています」

飲み忘れが多い場合、薬の数を減らしたり1日1回の薬にまとめたりする工夫ができることがあります。「ちゃんと飲めていない」と正直に伝えることはより良い治療への第一歩です。

「家に薬がたくさん余っています」

認知機能の低下とともに薬の管理はおざなりになることがあって、またそのこと自体を忘れていることがよくあります。家族や薬局からこの言葉を聞いたときは棚卸しのタイミングです。

自分でできる「薬の棚卸し」3ステップ

薬の見直しは主治医と一緒にするものですが、事前に自分で準備しておくと診察がスムーズになります。

ステップ1:今飲んでいる薬をすべて書き出す

処方薬だけではありません。ドラッグストアで買っている薬(市販薬)やサプリメントも含めてすべてリストアップしましょう。市販薬やサプリメントも含めて「全部で何種類飲んでいるか」を把握することが第一歩です。

お薬手帳の記事でも触れましたが、お薬手帳に市販薬やサプリメントをメモしておくとこの作業がずっと楽になります。

ステップ2:それぞれの薬の「目的」を確認する

1つ1つの薬について「これは何のための薬か」を確認しましょう。もしわからない薬があれば、次の診察で聞いてみてください。目的がわからない薬は見直しのきっかけになるかもしれません。

ステップ3:気になることをメモして持っていく

「この薬を飲むと胃がムカムカする」「最近この症状がなくなった」「飲み忘れが多い」——気になることは何でもメモして、次の診察に持っていきましょう。

小さなメモ1枚が、限られた診察時間の中で大きな力を発揮します。

薬剤師さんも頼れる味方

「薬の見直しは主治医に」と書きましたが、実はかかりつけの薬剤師さんも強力な味方です。

薬剤師は複数の病院から出ている薬の全体像を見て、飲み合わせの問題や重複がないかをチェックしてくれます。最近は「かかりつけ薬剤師」として、あなたの薬を継続的に管理してくれる制度もあります。

「先生には聞きにくい」ということでも、薬局で薬剤師さんに相談してみると、意外な気づきがあるかもしれません。

まとめ

  • ポリファーマシーとは一般的に5~6種類以上の薬を同時に使っている状態のこと
  • 薬の数が多い=悪いではない。「必要な多剤併用」と「問題のあるポリファーマシー」は別もの
  • 薬が増える原因には、複数の診療科、処方カスケード、なんとなく続いている薬がある
  • 自己判断で薬をやめるのは危険。減らすかどうかは必ず主治医と相談する
  • 減薬は「永久にやめる」ではなく「試してみる」こと。ダメなら戻せる
  • 市販薬・サプリメントも薬の数に含まれることを忘れずに
  • 「私の薬、全部まだ必要ですか?」——この一言が、薬の棚卸しの第一歩

参考文献・引用元

本記事は以下の資料を参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。

*1 ポリファーマシーの定義・問題点・対策について:厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」[こちら]

*2 日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」[こちら]

あとがき

最後まで読んでいただきありがとうございます。

「薬が多い」ということに対して、患者さんの反応は本当にさまざまです。「1つでも減らしたい」と強く思っている方もいれば、「全部必要だから続けたい」と思っている方もいます。どちらも間違いではありません。

ただ1つだけお伝えしたいのは薬は「出されたら飲み続けるもの」ではなく、定期的に見直すものだということです。体は変わりますし、病気の状態も変わります。去年必要だった薬が、今年も必要とは限りません。

また記事でも書いた認知機能が低下したケースがなかなか大変です。仮に薬を変えたとしてもその新しい処方にご自身で対応できないことも多いので周囲の方や介護サービスを使って服薬管理をすることがあります。ぜひ長期休みで実家に帰った時にご両親の薬箱を確認してみてください。

これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

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