「先生、夕方の薬をけっこう飲み忘れちゃうんです」
診察の終わりぎわ、打ち明けてくださる方がいます。でも安心してください。飲み忘れはまじめに治療している人にも普通に起こることです。
毎日、何年も同じ薬を飲み続けるのは思っている以上に大変なことです。大切なのは「一度も忘れないこと」ではなく、忘れたときにどうするかを知っておくことと忘れにくい仕組みをつくることです。
飲み忘れは「普通のこと」
実は長く続ける治療で処方どおりに薬を飲めているのは、先進国でもおよそ半分と言われています。
半分です。つまり飲み忘れは特別な人だけのものではありません。
だからこそ、飲み忘れたことを隠さないでほしいと思っています。「薬を飲んでいるのに血圧が下がらない」というとき、医師はまず「薬が合っていないのかな」「量が足りないのかな」と考えます。実は飲めていなかっただけなのに薬が増えてしまう、ということも起こりえます。
飲み忘れを正直に伝えてもらえるのは、医師にとってとてもありがたいことなのです。
基本のルールは2つだけ
薬によって細かい違いはありますが、多くの薬に共通する基本はこの2つです。
① 気づいたときに、1回分を飲む
② ただし、次に飲む時間が近ければ忘れた分は飛ばす(2回分をまとめて飲まない)
どのくらいを「近い」と考えるかは薬によって違いますが、よく使われる目安は「本来飲むはずだった時間から次に飲む時間までの、ちょうど半分を過ぎていたら飛ばす」というものです。
たとえば1日2回(朝・夕)の薬なら、朝の分を昼ごろに気づいたら飲む。夕方に気づいたら、朝の分は飛ばして夕方の分だけを飲む、というイメージです。
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なぜ「2回分まとめて」がダメなのか
「忘れた分を取り戻さなきゃ」と、2回分を一度に飲みたくなる気持ちはよくわかります。
でも薬は、血液の中の薬の量(濃さ)がちょうどよい範囲に収まるように、量と間隔が決められています。2回分を一度に飲むと、この濃さが一気に上がりすぎてしまいます。
お風呂のお湯にたとえると分かりやすいかもしれません。ぬるくなったからといって熱湯を一度にドバっと足すと、今度は熱すぎて入れなくなりますよね。薬もそれと同じで効きすぎや副作用につながることがあります。
特に注意が必要なのは、こうした薬です。
- 血圧の薬:下がりすぎて、ふらつきや立ちくらみが出る
- 糖尿病の薬:血糖が下がりすぎて低血糖を起こす
- 血液をサラサラにする薬:出血しやすくなる
1回飛ばしても、多くの場合すぐに大きな問題になることはありません。「飛ばす」ほうが「まとめて飲む」より安全なことが多いと覚えておいてください。ただし、てんかんの薬や臓器移植後の薬など、飛ばすこと自体に注意が必要な薬もあります。
「特別なルール」がある薬もあります
ここまでの基本ルールが当てはまらない薬もあります。代表的なものを挙げます。
| 薬のタイプ | 飲み忘れたときの考え方 |
|---|---|
| 週1回・月1回の骨粗しょう症の飲み薬 | 決められた飲み方があり、「翌朝に飲んで、その後は元の曜日に戻す」などのルールが薬ごとに定められている |
| 毎日の自己注射(骨粗しょう症のテリパラチドなど) | その日のうちか、翌日に回すか、薬ごとに決まりがある。翌日に2回分打たない |
| 低用量ピル(経口避妊薬) | 忘れた日数や時期によって対応が細かく分かれる |
| 食事に合わせて飲む糖尿病の飲み薬 | 食事をとらずに飲むと低血糖のおそれがある。食後しばらくたって気づいた場合の対応は薬ごとに決まっている |
| インスリン | 種類(食事に合わせて打つもの/1日1回の持続型など)で対応がまったく違う |
| ステロイド(長く飲んでいる場合) | 急に途切れると体調を崩すことがあり、飛ばし方に注意が必要 |
こうした薬は「忘れたらどうするか」を最初に聞いておくのがいちばんです。骨粗しょう症の薬については、骨粗しょう症の薬の記事でも種類ごとの特徴をまとめています。
困ったときに確かめる方法
「自分の薬はどうなの?」と思ったら、次の順番で確かめてみてください。
① 薬局でもらう説明書(薬の説明書・くすりのしおり)を見る 飲み忘れたときの対応が書かれていることがあります。
② 薬局に電話する 薬の飲み方については、薬剤師さんに聞くのがいちばんです。かかりつけの薬局に電話で聞いて構いません。
③ 次の受診のときに主治医に聞いておく 「この薬、飲み忘れたらどうしたらいいですか?」と一言聞いておくだけで、次に迷わずにすみます。
忘れにくくする工夫
飲み忘れは意志の強さではなく、仕組みでかなり減らせます。
- 生活の動作とセットにする:「歯みがきのあと」「朝のコーヒーの前」など、毎日必ずやることにくっつける
- お薬カレンダー・ピルケースを使う:1週間分を曜日ごとに分けておくと、飲んだかどうかがひと目でわかる
- 1回分ずつまとめてもらう(一包化):薬局で、1回に飲む薬を1袋にまとめてもらえることがある
- スマホのアラームを使う:飲む時間に鳴るようにしておく
そしてもうひとつ大事なのが、「飲み忘れが多い」こと自体を主治医に伝えることです。
1日3回の薬を1日1回にできないか、何種類かを1つにまとめた薬(配合剤)にできないか、そもそも減らせる薬はないか。飲み方そのものを見直すきっかけになります。薬の数が増えてきた方はポリファーマシーの記事、ご家族の薬が心配な方は家族が支える服薬の記事もあわせて読んでみてください。
明日からできること
いきなり全部は変えなくて大丈夫です。まずは1つだけ。
今飲んでいる薬の中で「これだけは飲み忘れたらどうするか知っておきたい」という薬を1つ選んで、次に薬局か病院に行ったときに聞いてみてください。
それだけで、次に飲み忘れたときに慌てずにすみます。
参考文献・引用元
本記事は以下の資料を参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。
【参考資料】
- 世界保健機関(WHO)『Adherence to Long-Term Therapies: Evidence for Action(2003)』
- くすりの適正使用協議会『くすりのしおり』
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます。
薬を飲み続けるというのは本当に大変なことだと思います。私も1日1回ならまだしも、1日3回の薬は続けて飲む自信はありません。
同じように感じる方は多いと思います。飲み忘れがあることを、ぜひ隠さずに教えてください。すべてのケースで変更できるとは言いませんが、そうすることで1日1回の薬を選んだり、飲み方を話し合ったりします。
言われた通りに処方を受ける→飲み忘れる→薬が効かないというほうが本末転倒なので。
これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

