【医師が解説】RSウイルスは子どもだけの病気じゃない|大人のRSワクチンを知っていますか?

記事タイトル画像「RSウイルスワクチン 赤ちゃんだけの病気じゃない」。紫色のウイルスの模型に注射器の針が刺さっている写真。 感染症・予防接種
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この記事はRSウイルス感染症とそのワクチンについての理解を深めていただくことを目的としています。接種するかどうか、どのワクチンを選ぶかは、ご自身の年齢・持病・妊娠の有無などによって変わります。最終的な判断は、必ず主治医とよく相談の上で決めてください。 この記事が主治医との会話のきっかけになれば嬉しいです。

「RSウイルスって、赤ちゃんがかかる病気でしょう?」

外来でRSウイルスのワクチンの話をすると、多くの方がこうおっしゃいます。たしかにRSウイルスは乳幼児の感染症として有名です。でも実は、大人も毎年のようにかかっています。多くは「ちょっと長引く風邪」で済みますが、高齢の方や持病のある方では肺炎や気管支炎を起こして入院に至ることもある、油断できないウイルスなのです。

そして、「赤ちゃんの病気」であることも、実はこの記事の大事なポイントです。これは後ほどお話しします。

ここ最近、大人向けのRSウイルスワクチンが立て続けに登場し、2026年4月からは妊婦さん向けの接種が公費の対象(定期接種)になりました。対象年齢が広がる動きもあり、情報が入り組んでいるので、この記事で整理しておきましょう。

RSウイルスとは ── 大人にとっての本当のリスク

RSウイルスはせきや鼻水を通じてうつる、ありふれた呼吸器のウイルスです。一生のうちに何度もかかり、多くの大人にとっては「ただの風邪」程度で終わります。

問題になるのは、重症化しやすい人です。具体的には、

  • 60歳以上の高齢の方
  • COPD(慢性閉塞性肺疾患)やぜんそくなど、もともと肺に持病がある方
  • 心不全などの心臓の持病がある方
  • 糖尿病や、免疫が下がる治療を受けている方

こうした方ではRSウイルスがきっかけで肺炎を起こしたり、もともとの持病(ぜんそくや心不全)が悪化したりすることがあります。日本の感染症・呼吸器・ワクチンの3つの学会もこうした重症化しやすい方にとっては、RSウイルスはインフルエンザと同じように注意が必要な感染症だという見解を出しています。

さらに、インフルエンザにはウイルスそのものを抑える薬(抗インフルエンザ薬)があります。ところが大人のRSウイルスには、ウイルスに直接効く薬がありません。かかってしまったら、酸素や点滴などで体の回復を支えながら自分の力で治るのを待つことになります。だからこそ、「かからない・重くしない」ための予防に意味があるのです。

(インフルエンザワクチンについては「今季のインフルエンザは流行入りが早い|ワクチンはいつ・どれを打つ?」、肺炎球菌ワクチンについては「肺炎球菌ワクチンが大きく変わりました」、帯状疱疹ワクチンについては「知っておきたい帯状疱疹ワクチン」でお話ししています。)

なぜ、大人のRSウイルスはあまり知られていないのか

インフルエンザと同じくらい重くなることがあるのに、なぜ名前を聞く機会が少ないのでしょうか。

理由のひとつは、大人の風邪や肺炎では原因がRSウイルスかどうかまで調べることが一般的ではないからです。先ほどお話ししたとおり、大人のRSウイルスにはウイルスに直接効く薬がありません。そのため検査でRSウイルスとわかっても、治療の内容は大きく変わらないことがほとんどです。症状に合わせた治療を優先するのは、ごく自然な流れなのです。

ただその結果として、大人のRSウイルスがどれくらい起きているのかは、長いあいだ「見えにくい」状態でした。近年、研究として多くのウイルスをまとめて調べられるようになり、ようやく実態がわかってきたところです。

大切なのはかかったあとにRSウイルスかどうかを突き止めることよりも、重症化しやすい方が前もって予防について考えておくことです。

大人向けのRSワクチンは3種類

日本で大人向けに承認されているRSウイルスワクチンは、アレックスビー、アブリスボ、エムレスビアの3種類です。細かい違いはありますが、押さえておきたいポイントは次のとおりです。

  • 接種は1回: いずれも筋肉注射で1回。毎年打つインフルエンザワクチンとはここが違います
  • 効果: 60歳以上の方を対象にした臨床試験では、接種後最初の流行シーズンにのどより奥の気管支や肺の病気(下気道の病気)にかかる人が、打っていない人に比べて約8割少なくなりました
  • 効果の続く期間: 少なくとも2シーズン程度は効果が続くと考えられています
  • 対象: 3種類とも60歳以上の方が対象です。アレックスビーは重症化するリスクが高い方であれば18〜59歳でも接種できます。妊婦さんが接種できるのはアブリスボだけです

どのワクチンが優れているという話ではなく、年齢や持病、医療機関での取り扱いなどによって選び方が変わります。どれにするかは主治医と相談して決めてください。

2026年4月から「妊婦さんの接種」が定期接種に

ここが新しい大事なポイントです。

これまでRSワクチンはすべて任意接種(全額自己負担、およそ24,000〜30,000円程度)でした。ところが、2026年4月1日から妊婦さんへの母子免疫ワクチン(アブリスボ)が定期接種になりました。対象となる妊婦さんは、原則として自己負担なしで接種を受けられます。

赤ちゃんにとってのRSウイルス

冒頭で「赤ちゃんの病気であることも大事なポイント」とお話ししました。赤ちゃんにとってRSウイルスは、大人の「ただの風邪」とはまったく違う顔を見せます。

日本では毎年、2歳未満の赤ちゃん12万〜18万人がRSウイルス感染症と診断され、そのうち3万〜5万人が入院しています。初めてかかったときにおよそ3人に1人はせきがひどくなり、細い気管支に炎症が起きる「細気管支炎」などに進むといわれています。

赤ちゃんの気道は、大人に比べてとても細い「ストロー」のようなものです。ウイルスで内側が少しむくんだり、痰が詰まったりするだけで空気の通り道がふさがりやすくなります。その結果、体に十分な酸素を取り込めなくなり、酸素の投与が必要になって入院する——これが赤ちゃんのRSウイルスでよくある入院のパターンです。特に、生まれて数か月の小さな赤ちゃんほど重くなりやすいことがわかっています。

お母さんの接種で、生まれた日から赤ちゃんを守る

妊娠28〜36週にお母さんがRSウイルスワクチンを1回接種すると、抗体が胎盤を通っておなかの赤ちゃんに移り、生まれた日から守られてスタートできることを示した図解

そこで考えられたのが、お母さんがワクチンを打ちその免疫(抗体)を胎盤を通じて赤ちゃんに受け渡す「母子免疫」という方法です。赤ちゃんは生まれたその日から、お母さんからもらった抗体で守られた状態でスタートできます。

臨床試験では酸素が足りなくなる、集中治療室での治療が必要になるなど、重症のRSウイルスの下気道の病気にかかる赤ちゃんが、お母さんが接種しなかった場合に比べて、

  • 生後3か月まででは約8割少なく
  • 生後6か月まででは約7割少なく

なりました*1。もちろん「かからなくなる」わけではなく、軽い症状も含めると予防効果はもう少し低くなります。それでも、赤ちゃんが一番重くなりやすい時期を守れることに、大きな意味があります。

接種の時期

接種できる時期は決まっていて、妊娠28週0日から36週6日までの間に1回です。お母さんの体で抗体ができて赤ちゃんに移るまでには時間がかかるため、接種から出産までに2週間程度あいていることが望ましいとされています。週数の幅はそれほど広くないので、里帰り出産などの予定がある方は早めに産科の主治医と接種の段取りを相談しておくと安心です。

高齢の方は、今のところ任意接種

一方で、高齢者向けの接種は今のところ任意接種のままです(自治体によっては独自の助成を設けている場合があります)。

臨床試験では高齢の方へのワクチンの効果も確認されています。ただ、国が公費で接種を進めるかどうかを決めるには、「日本で毎年どれくらいの大人がRSウイルスで入院し、命に関わっているのか」というデータが欠かせません。先ほどお話ししたとおり、大人のRSウイルスはこれまであまり検査されてこなかったため、このデータはまだ集まり始めたところです。赤ちゃんでは入院の多さがはっきりしていたため、先に定期接種になった、という面もあります。

「妊婦さんは定期接種」「高齢者は任意接種」と、立場によって扱いが分かれている点に注意してください。

よくある質問

Q. 毎年打つ必要がありますか?

いいえ。インフルエンザのように毎シーズン打つものではなく、現時点では1回の接種で少なくとも2シーズン程度は効果が続くと考えられています。今後、追加接種の考え方が変わる可能性はあります。

Q. インフルエンザや肺炎球菌のワクチンと一緒に打てますか?

同時接種は可能とされています。ただし組み合わせによっては注意が必要なこともあるため、打つ場所(接種部位)を分けるなど、主治医と相談して進めてください。

Q. どんな副反応がありますか?

注射した部分の痛み、筋肉痛、頭痛、だるさなどが報告されています。多くは軽く、数日以内におさまります。

また、とてもまれですが、手足に力が入りにくくなる「ギラン・バレー症候群」という病気が、接種後に報告されています(アメリカの集計で、100万回の接種あたり数件程度)。専門の学会は、こうした頻度をふまえても、接種による利益のほうが上回ると考えています。気になる症状があれば、接種した医療機関に相談してください。

Q. 60歳未満で持病がある場合は打てますか?

打てる場合があります。アレックスビーは対象が広がり、重症化するリスクが高い方であれば18〜59歳も対象に含まれるようになりました。対象となる持病の例として、肺・心臓・腎臓・肝臓の慢性の病気、糖尿病、神経の病気、肥満などが挙げられています。ご自身が当てはまるかは持病の内容によりますので、主治医に確認してみてください。

予防接種の健康被害の救済制度

予防接種は感染症を防ぐために重要なものですが、ごくまれに健康被害(病気になったり障害が残ったりすること)が起こることがあり、ゼロにすることはできません。そのため救済制度が設けられています。

どの制度の対象になるかは、定期接種か任意接種かで分かれます。

参考資料

本記事は以下の資料を参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。

【参考ガイドライン・サイト】

【参考論文】

  • *1 妊婦さんへのRSウイルスワクチン接種による赤ちゃんの重症化予防効果に関する研究:Kampmann B, et al. (2023) N Engl J Med. [PubMed]

あとがき

最後まで読んでいただきありがとうございます。

RSウイルスは正直なところ私自身、医師になりたての頃は「赤ちゃんの病気」というイメージで止まっていました。ところが高齢の患者さんが肺炎で運ばれてきて調べてみるとRSウイルスだった、という経験を何度かして印象がすっかり変わりました。本文でお話ししたとおり、大人のRSウイルスは「少ない」のではなくこれまで「見えていなかった」のだと、今は感じています。

新しいワクチンが増えると、「結局どれを打てばいいの?」と迷うのが正直なところだと思います。全部を完璧に理解する必要はありません。「自分(あるいは家族)は重症化しやすい立場かな?」という視点を持って、かかりつけの先生に一言聞いてみる。それだけで十分な第一歩です。

これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

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