【医師が解説】一生に一度でいい検査があります|肝炎ウイルス検査と肝がんの話

記事タイトル画像「肝炎ウイルス検査 沈黙の臓器に一度採血を」。木の棚に「A」「B」「C」の立体的な飾り文字が並び、背景に緑がぼやけて写る写真。 ヘルスメンテナンス

この記事は肝炎ウイルスと肝がんについての理解を深めていただくことを目的としています。検査の結果や治療の方針について、ご自身だけで判断することは避けてください。

最終的な治療方針は、必ず主治医とよく相談の上で決めてください。この記事が主治医との会話をより実りあるものにするきっかけになれば嬉しいです。

健康診断もがん検診も、定期的にくり返すことに意味がある。ここまでの記事でそうお話ししてきました。

今日はその例外の話です。原則として一生に一度受ければよい検査があって、それが肝炎ウイルス検査です。

一度でいいのに受けたことがない方がとても多い。しかもこの検査は見つかったあとにできることがこの10年ほどで大きく変わりました。 そこが今日いちばんお伝えしたいところです。

肝臓は「沈黙の臓器」

肝臓は体の中の化学工場のような臓器です。栄養を作りかえ有害なものを分解し、必要なものを貯めておく。しかもその仕事量にかなりの余裕があります。余裕があるということは多少傷んでも症状が出ないということでもあります。「沈黙の臓器」と呼ばれるゆえんです。

どのくらいの時間の話かというと、C型肝炎の場合は感染から平均20年ほどかけて一部の方が肝硬変に進むと報告されています。だるさも痛みもないまま、それだけの時間が過ぎていきます。

逆に言えば、気づくための時間はたっぷりあるということでもあります。一度の採血で気づけるかどうか、それだけの違いです。

肝炎ウイルスと肝がんのつながり

日本の肝がんの多くは、B型またはC型の肝炎ウイルスへの感染が背景にあります。

ウイルスに感染する → 炎症が長く続く → 肝臓が硬くなっていく(線維化・肝硬変)→ その土台からがんが発生する。

ピロリ菌の話と構造がよく似ており、長く続く炎症ががんの土壌をつくります。 そして症状が出ないまま進むので、症状を待っていては手遅れになりやすいのです。逆に言えば、ウイルスがいるかどうかを一度調べておけばこの道筋の入口で手を打てるということでもあります。

肝炎ウイルスが肝臓にもたらす変化を、畑の土にたとえて左から右へ並べた図解。健康な肝臓(豊かな土)にB型・C型のウイルスが入り、数年〜数十年かけて炎症が続き、線維化・肝硬変で肝臓が硬くなり、やがてがんが発生する。ピロリ菌と胃がんの話と同じ構造であること、症状が出ないまま進むことが添えられている。

ここで一つ、明るい数字をお伝えします。

日本の肝がんによる死亡は2000年代なかばの年間およそ3万4千人をピークに減り続けており、2024年には2万2千人あまりとなりました。ウイルス性肝炎への対策が確実に結果につながっているということです。

一方で、肝がんの原因の内訳は変わってきています。かつては肝がんの約7割がC型肝炎ウイルスによるものでした。しかしその比率は下がり続け、2012〜2013年に診断された肝がんでは、B型でもC型でもないものが約4割を占めるまでになっています。

検査は、一度受ければよい

国立がん研究センターも「地域の保健所や医療機関で一度は肝炎ウイルスの検査を受けましょう」と勧めています。採血だけで、B型・C型のどちらも同時に調べられます。

多くの自治体で無料または低額で受けられます。 費用や実施場所は市区町村によって違うので、「(お住まいの市区町村名) 肝炎ウイルス検査」で検索すると案内が見つかります。

なぜ一度でよいかというと、感染の主な経路が過去の輸血や医療行為、母子感染など、大半が過去の出来事だからです。現在の医療現場では感染対策が確立しており、新たな感染は大きく減っています。

たとえば輸血がそうです。日本は1989年、世界に先駆けて献血された血液のC型肝炎ウイルス検査を始めました。 それ以降、輸血が原因の肝炎は激減しています。かつてはC型肝炎の感染経路のおよそ半分が輸血でしたが、いまは事情がまったく違います。

ここは大事なところなので添えておきます。過去に感染した方に落ち度があったわけではありません。 当時は分かっていなかったこと、できなかったことが背景にあります。

陽性だったら ── いまは治療があります

ここがこの記事でいちばんお伝えしたい部分です。「肝炎ウイルスが陽性」と聞くと重く受け止められるかもしれません。かつては確かに治療が難しい病気でした。

しかし、いまは状況がまったく違います。

C型肝炎については飲み薬による治療が登場し、多くの方でウイルスを体から排除できるようになりました。注射を続ける必要も、強い副作用に耐える必要も、以前ほどではなくなっています。臨床試験では、95%を超える方でウイルスが検出されなくなったと報告されています。

治療期間も限られています。お薬の種類や肝臓の状態によりますが、8週間から12週間で終わるのが一般的です。 日常生活を続けながら受けられる方がほとんどです。

B型肝炎は少し性質が違います。こちらはウイルスを完全に排除するというより、薬でウイルスの増殖を抑えてコントロールしていくのが基本になります。定期的に見ていく必要はありますが、放置するのとは経過がまったく変わります。

いずれにしても陽性と分かることは悪い知らせではありません。 対処法がある状態が見つかった、ということです。

お金の話 ── 助成の仕組みがあります

肝炎の治療には、公的な助成の仕組みが用意されています。肝炎治療の医療費助成肝がん・重度肝硬変の治療に対する助成などの支援があります。

「治療費が心配で受診をためらう」という話をときどき聞きます。制度があることを知らないまま我慢するのは、いちばんもったいないと思います。

金額や申請の方法は改定されることがあり、手続きの窓口も都道府県ごとに違います。「(お住まいの都道府県名) 肝炎 医療費助成」で検索すると、いまの案内が見つかります。

肝がんのリスクを下げるには、ウイルスだけではない

ピロリ菌の回と同じ話をします。

飲酒と肥満も肝がんのリスクを高める要因です。ウイルスへの対応と生活習慣は、どちらか一方ではなく両方です。

なお、B型肝炎ウイルスのワクチンは予防接種法に基づく定期接種として0歳児を対象に公費で実施されており、次世代への対策はもうすでに始まっています。

明日からできること

1つ目は、肝炎ウイルス検査を受けたことがあるか思い出してみること。 会社の健康診断の項目には、通常入っていません。「健診は毎年受けている」はこの検査を受けた根拠になりません。ちなみに検査を受けたことがない方は3〜4割いるという調査結果があります。受けていなくてもめずらしいことではありません。

2つ目は、受けたことがなければ、お住まいの自治体の案内を調べること。 保健所や委託先の医療機関で受けられます。何歳で何を受けておけばいいのかは、検査とワクチンの年齢別カレンダーにまとめています。

3つ目は、以前「陽性」と言われたまま通院していない方は、もう一度相談してみること。 何年も前に言われて、そのままになっている方が実際にいらっしゃいます。当時と今とではできることが変わっています。

参考文献・引用元

本記事は以下の資料を参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。

【参考ガイドライン】

【参考資料】


あとがき

最後まで読んでいただきありがとうございます。

肝炎は確かに過去の病気になりつつありますが、中高年~高齢の方にはまだ一定数の頻度で現場で出会うことはあります。

私個人の経験になってしまいますが、50代の方で腹痛で来られて肝がんの破裂の診断となった方がいました。よくよく聞くと「肝炎の検査で引っかかったけど、その後の検査は受けていなかった」という症例があり、とても印象的だったので今でも覚えています。

今の若い世代の方には縁がないように聞こえますが、一度は調べる価値はありますし、中高年以上の方で検査を受けたことがない方はぜひこの機会にでも検査を受けてみてください。

次回は、5つの検診の中でいちばん若く始まるもの──子宮頸がん検診の話です。

これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。


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