第1回では国が勧めるがん検診が5つあること。第2回では便潜血が陽性と言われたときにどうするか。ここまでは「できてしまったがんを、早く見つける」話でした。
今日はその手前の話をします。そもそも、がんになりにくくするために何ができるのか。
こういう話を始めると、身構えてしまう方が多いと思います。「どうせたばこをやめろ、酒を控えろ、野菜を食べろ、運動しろ、でしょう」と。
そのとおりです。目新しいことは何もありません。
ただ今日お伝えしたいのは中身そのものよりも、それがどれくらい効くのか数字で分かっているということです。「なんとなく体に良さそう」ではなく、日本人を対象にした研究の積み重ねから出てきた答えがあります。
まず、どのくらい変えられるのか
がんの原因には遺伝的な体質や年齢のように、自分では変えられないものがたくさんあります。ここは正直にお伝えしておきたいところです。
そのうえで日本人のがんのうち、喫煙・飲酒・感染といった生活習慣や感染が要因と考えられるものは男性で43.4%、女性で25.3%と推計されています。
裏を返せば、男性で6割近く、女性で7割以上は生活習慣以外の要因によるものだということでもあります。がんになった方が生活習慣のせいで病気になったわけではない。 ここは強調しておきます。
そのうえで、変えられる部分に手が届くなら届かせておく価値はある。そういう話として読んでいただければと思います。
5つ実践すると、どれくらい違うのか
40歳から69歳の男女約14万人を対象にした調査があります。「たばこ」「お酒」「食生活」「身体活動」「体重」の5つに気をつけて暮らしている人と、そうでない人を追いかけて比べたものです。
結果はこうでした。
5つすべてを実践していた人は、何も実践していない(または1つだけの)人に比べてがんになるリスクが男性で43%、女性で37%低かった。
ざっくり言えばリスクが4割前後下がって6割くらいまで減る、という規模感です。しかも中身は特別なサプリメントでも高価な検査でもありません。
そして大事なのは、5つ全部やらないと意味がない、という話ではないということです。実践する数が増えるほど、段階的にリスクが下がっていくことが分かっています。いま0個の方が1個にする、1個の方が2個にする。 それで十分に意味があります。
① たばこ ── 吸わない、煙を避ける
いま分かっているがんの要因の中で、喫煙は男性では最も多く、女性でも2番目です。
たばこを吸う人は、吸わない人に比べて何らかのがんになるリスクが約1.5倍になります。肺がんが真っ先にイメージされると思いますが、食道・肺・胃・膵臓・子宮頸部・肝臓・頭頸部・膀胱・大腸のがんでリスクが確実に増えることが分かっています。「肺がんだけの話」ではないのです。
それから、他人の煙も同じです。受動喫煙でも肺がんのリスクが高くなり、乳がんについても可能性が指摘されています。
「やめたいけどやめられない」を意志の弱さの問題にしないでください。要件を満たせば、紙巻きたばこでも加熱式たばこでも保険診療で禁煙治療が受けられます。
関連記事:「禁煙したら太った」の正体
喫煙者には「そんなことは分かっているけど吸いたいから吸うんだ」という人と、「分かってるんだけどやめられない」という人がいると思っていて、私も診察室で見極めるようにしています。前者の方にはもちろん話はします。ただ、聞き入れてくれることは多くない印象です。逆に後者の方は話し方次第で関心を持ってくれる方もいるので積極的に情報提供するようにしています。
② お酒 ── 少ないほうがいい、が結論
飲酒は喫煙・感染に次いで多いがんの要因です。とくに肝臓・食道・大腸・頭頸部(口やのど)のがんについては、お酒の量が増えるほどリスクが上がることが、研究の積み重ねから確実なものとして扱われています。
では、どのくらいの量から気をつけたほうがいいのでしょうか。
お酒は種類によって強さが違うので、「純アルコール量」という共通のものさしで比べます。目安になるのが日本酒1合(純アルコールで約23g)。 ビールなら大瓶1本、焼酎なら120mlほど、ワインならグラス2杯、7%のチューハイなら350ml缶1本が、だいたい同じ量です。
日本人男性を対象にした研究では、1日1合未満の人に比べて、
- 1日2合以上の人は、がんになるリスクが約1.4倍
- 1日3合以上の人は、約1.6倍
という結果でした。日本人男性のがんの約13%は、1日2合以上の飲酒習慣によるものと考えられています。
なお、この「1.4倍」はあまり飲まない人と比べたときの数字です。
女性は男性より体質的にお酒の影響を受けやすく、より少ない量でリスクが上がるという報告があります。先ほどの研究で女性にはっきりした傾向が出なかったのは、そもそも毎日飲む女性が少なかったからで女性なら安心という話ではありません。
国際的な報告も踏まえると、がんのリスクを減らすという一点だけで言えば「飲まないのがベスト」というのが現在の結論です。
とはいえ、いきなりゼロにしましょうという話をしたいわけではありません。この話には続きがあって、日本人には「量」の前に知っておいたほうがいい体質の話があります。 それは別の回でいつかお話しします。
③ 食生活 ── 塩を減らす、野菜と果物、熱いものは冷ます
食生活については、3つのことが分かっています。
減塩する。 塩分の多い食事は胃がんのリスクをほぼ確実に高めます。食塩摂取量の目標は、成人で1日あたり男性7.5g未満、女性6.5g未満になります。血圧の記事でもお話ししましたが、ここでもやはり塩なのです。
野菜と果物をとる。 食道がんのリスクがほぼ確実に下がります。目安は1日に野菜350g以上、果物200g程度(健康日本21)。食事の組み立て方そのものは、血糖値を下げる食事と運動の記事で詳しくお話ししています。
熱い飲み物・食べ物は少し冷ましてから。 これは意外に知られていません。熱いままとると食道がんのリスクが高まるという報告が数多くあります。口の中や食道の粘膜を傷つけないように、という理屈です。
④ 身体活動 ── 「運動」でなくていい
仕事や運動などで体を動かすことが多い人ほど、がん全体の発生リスクが低くなります。 特に大腸がんのリスクは、ほぼ確実に下がることが報告されています。
ここで大事なのは、「運動」という言葉に構えないことです。国の指針が示している方向性は、「個人差を踏まえ、強度や量を調整し、できるものから取り組むこと」「今よりも少しでも多く体を動かすこと」です。
いまより少しでも多く。それが公式の言い方です。実際にどう増やしていくかは、腎臓病の食事・運動の記事でも同じ考え方でまとめています。
⑤ 体重 ── 太りすぎだけでなく、やせすぎも
ここは誤解されやすいところなので、丁寧にお話しします。
総死亡リスクもがんによる死亡リスクも、太りすぎでもやせすぎでも高くなります。 とくに男性ではやせすぎの人でリスクが高くなることが報告されています。
体重の指標にBMIというものがあります〔体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)〕。がんのリスクを減らすという観点からは男女ともBMIが21〜25の範囲になるように管理するのがよいとされています。
たとえば身長160cmの方なら、およそ54kgから64kgのあいだです。
「軽ければ軽いほどいい」ではありません。 極端な減量はここで推奨されているものではない、という点をはっきりお伝えしておきます。
+1 感染 ── いちばん知られていない話
ここからが、今日のいちばんお伝えしたい部分かもしれません。
がんの要因として女性では最も多く男性では2番目に多いのが「感染」です。喫煙や飲酒より、女性では感染のほうが多いのです。
「がんは生活習慣の病気」というイメージが強いぶん、ここは驚かれる方が多いところだと思います。
そして感染が要因である場合、検査法やワクチン、治療法があるものが少なくありません。 つまり、対応の余地がある。代表的なのは次の3つです。
肝炎ウイルスと肝がん。 地域の保健所や医療機関で一度は肝炎ウイルス検査を受けることが勧められています。感染していた場合、特にC型肝炎は積極的に治療を受けることが勧められます。
ピロリ菌と胃がん。 機会があれば検査を受け除菌については医師とよく相談して決める。そして除菌したあとも、定期的に胃がん検診を受けることが勧められています。
HPVと子宮頸がん。 子宮頸がんは他のがんと違って20代からみられます。小学6年〜高校1年相当の女子は定期接種の対象です。そして検診を定期的に受けることが、前がん病変の段階で見つけるために有効とされています。
この3つはそれぞれ記事にする予定です。今日は「そういう入口がある」ということだけ持ち帰っていただければ十分です。

明日からできること
いきなり全部は変えなくて大丈夫です。むしろ、全部やろうとしないほうがいいと思っています。
1つ目は、5つのうち自分がいくつできているか数えてみること。 たばこ・お酒・食事・身体活動・体重。0個でも構いません。数えることが出発点です。
2つ目は、そのうち「これならできそう」を1つだけ選ぶこと。 熱いお茶を少し冷ましてから飲む、でもいいのです。0個が1個になる、1個が2個になる。その変化に意味があることは、数字が示しています。
3つ目は、肝炎ウイルス検査を受けたことがあるか思い出してみること。 一生に一度でよい検査ですが、受けたことがない方がとても多い検査です。
参考文献・引用元
本記事は以下の資料を参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。
【参考資料】
- 国立がん研究センター がん情報サービス『科学的根拠に基づくがん予防法(2026年6月改訂)』
- 厚生労働省『日本人の食事摂取基準(2025年版)』
- 厚生労働省『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます。
よくがんの診断を受けた方に「何が悪かったんですか、お酒ですかね、たばこですかね。」と言われて、答えに困ることが多いです。がんの種類、その人の元々の持病などにもよりますが、お酒の可能性もあるし、たばこの可能性もあるし、それ以外のどうしようもない理由の可能性もあります。ただ1日1箱を40年吸い続けて肺がん、1日焼酎2合を30年飲み続けて肝臓がんとなると話は変わってきます。
もちろん私も全てをきっちり制限して皆さんに味気のない生活を送ってほしいわけではありません。お酒、たばこ、塩分の多い食事なんかは日常生活の楽しい部分を占めることが多いのは分かっています。要はバランスの問題で将来の自分のがんになる確率とトレードオフで今の生活を考えていただければと思います。
逆に全て気をつけていても一定の確率でがんになる可能性ももちろん存在します。
次回からは、この「+1 感染」を1つずつ掘り下げていきます。まずはピロリ菌と胃がんの話から。
これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

