【医師が解説】ピロリ菌と胃がん|「見つける」の前に「減らす」という考え方

記事タイトル画像「ピロリ菌と胃がん 除菌しても検診うける」。上から見下ろした螺旋階段が渦を巻いているモノクロ写真。 ヘルスメンテナンス

この記事はピロリ菌と胃がんについての理解を深めていただくことを目的としています。検査や除菌を受けるかどうかは、ご自身の状況によって変わります。ご自身だけで判断せず、必ず主治医とご相談ください。

この記事が主治医との会話をより実りあるものにするきっかけになれば嬉しいです。

前回、がんの要因として「感染」が女性で最も多く男性で2番目に多いという話をしました。今日はその代表格であるピロリ菌の話です。

第1回の総論では「早く見つける」話をしました。でもピロリ菌の話は少し違います。そもそも胃がんになりにくくする、という話だからです。

「胃がんは日本人に多い」と言われてきました。実際そのとおりで、いまも1年間に約10万5千人が胃がんと診断され約3万8千人が亡くなっています。ただ、長い目で見ると日本の胃がんは減り続けています。 その理由の大きな部分をこの菌が説明します。

ピロリ菌とは何なのか

正式にはヘリコバクター・ピロリといい、胃の中に棲みつく細菌です。

「胃の中は強い酸なのだから、細菌なんて生きられないのでは」と思われるかもしれません。そのとおりで、ふつうの細菌は胃酸で死んでしまいます。ピロリ菌は自分のまわりの胃酸を中和するという工夫を持っていて、そのおかげで胃に棲み続けることができます。

棲みついたピロリ菌は胃の粘膜に炎症を起こします。しかもこの炎症は痛みなどの自覚症状をほとんど出さないまま、何十年も続きます。

何が起こるのか ── 長い時間をかけた変化

ピロリ菌が長く胃にいると胃の粘膜は次のように変化していきます。

慢性胃炎(炎症が続く)→ 萎縮性胃炎(粘膜が薄く痩せていく)→ 腸上皮化生(胃の粘膜が腸に似た性質に置きかわる)

この変化が進んだ胃はがんが発生しやすい状態になります。畑にたとえるなら、土がやせて荒れていくイメージでしょうか。すぐに何かが起こるわけではないのに下地が少しずつ変わっていく。

大事なのは、この間ほとんど症状がないということです。「胃が痛くないからピロリ菌はいない」とは言えません。

ピロリ菌が胃にもたらす変化を、畑の土にたとえて左から右へ並べた図解。健康な胃(豊かな土)から数年〜数十年かけて、慢性胃炎、萎縮性胃炎、腸上皮化生へと進み、がんのリスクが高まる状態になる。この間ほとんど症状がなく、「胃が痛くないからいない、ではない」と添えられている。

なぜ日本人に多いのか ── 世代で大きく違う

ピロリ菌の感染は主に幼いころに起こると考えられています。大人になってから新たに感染することは多くありません。

そして感染率は、生まれた年代によって大きく違います。 日本人約17万人分のデータをまとめた研究では、感染していると推定される割合は次のように報告されています*1。

1930年ごろ生まれ 約67

3人に2人

1950年ごろ生まれ 約59

5人に3人

1970年ごろ生まれ 約35

3人に1人

1990年ごろ生まれ 約16

6人に1人

2000年ごろ生まれ 約7

15人に1人

日本人約17万人分のデータをまとめた研究による推計値です。生まれた年による違いを示すもので、お一人おひとりの感染の有無を表すものではありません。

上下水道が整う前の衛生環境で育った世代ほど感染率が高く、若い世代ほど低いということになります。同じ日本人でも、親の世代と子の世代でまったく状況が違うのです。ご両親の世代では3人に2人、お子さんの世代では15人に1人。これだけ違えば、話がかみ合わないのも当然だと思います。

「日本人は胃がんが多い」という言い方は、正確には「ピロリ菌の感染率が高い世代を多く抱えてきた」ということでもあります。若い世代の感染率が下がっている以上、日本の胃がんは今後も減っていくと考えられています。

検査はどうやるのか

いくつか方法があります。息を吐く検査(尿素呼気試験)、血液や尿で抗体を調べる検査、便を調べる検査、そして胃カメラのときに組織を採って調べる方法です。

どれを使うかは状況によりますが、ひとつ知っておいていただきたいのは、保険を使って検査・除菌をするには、原則として胃カメラで胃炎などの診断がついていることが必要だという点です。

2013年から内視鏡で慢性胃炎と診断された場合も保険が使えるようになりました。それ以前は胃潰瘍などがないと保険の対象外だったので、これは大きな変更でした。

なお、健診や人間ドックのオプション、自治体の事業などで検査を受けられることもあります。この場合の条件はお住まいの地域によって違います。

除菌はどうやるのか

胃酸を抑える薬1種類と、抗菌薬2種類の合計3剤を、1日2回、7日間飲むのが基本です。1週間の内服で終わります。

飲み終わってしばらく経ってから、菌がいなくなったかを確認する検査をします。1回目(一次除菌)でうまくいかなかった場合は、抗菌薬の組み合わせを変えて2回目(二次除菌)を行います。二次除菌までは保険が使えます。

気になるのは「それでどのくらい成功するのか」だと思います。一次除菌の成功率はおよそ9割。うまくいかなかった方が受ける二次除菌でも8割以上と報告されています。多くの方は1回、うまくいかなくても2回で終わる、というのが今の姿です。

副作用として、下痢や軟便、味がおかしく感じる、発疹などが起こることがあります。気になることがあれば、自己判断で中断せず処方した医師に相談してください。中途半端に飲むのをやめると、除菌に失敗しやすくなります。

いちばん大事な話 ── 除菌しても、胃がん検診はやめない

ここが今日のいちばんのポイントです。

除菌に成功すると胃がんになるリスクは下がります。しかし、ゼロにはなりません。

理由はさきほどの「土がやせていく」話にあります。除菌した時点ですでに変化してしまった胃の粘膜は、完全には元に戻らないのです。菌がいなくなっても、荒れた土壌はそこに残ります。だから除菌後に胃がんが見つかることが実際にあります。

報告によって幅がありますが、除菌後もおおむね年に1%前後という水準です。また萎縮が進んだ状態で除菌した方はさらに確率が高くなります。 だからこそ、除菌した方にも2年に1回の胃がん検診が勧められています。

国立がん研究センターも「機会があればピロリ菌の検査を受けましょう。定期的に胃がん検診を受けるとともに、除菌については医師とよく相談して決めましょう」と、検査・除菌と検診をセットで書いています。

「除菌したからもう安心」ではなく、「除菌してそのうえで検診も続ける」。 ここを取り違えないでいただきたいと思います。とくに萎縮が進んでから除菌した方や年齢が上がってから除菌した方は、その後の見ていき方について主治医とよく相談してください。

家族のことが気になる方へ

「自分にピロリ菌がいたなら、家族も?」と思われるのは自然なことです。

感染は主に幼いころに起こると考えられていて家庭内での経路が想定されています。ただ、ここで誰かの責任を問うような話にはしないでいただきたいと思っています。上下水道が整う以前の衛生環境が背景にあり、個人の努力でどうにかなるものではありませんでした。

気になる場合はご家族も検査を受けるという選択肢があります。かかりつけの医療機関で相談してみてください。

胃がんのリスクを減らすには、菌だけではない

ピロリ菌の話をすると「除菌さえすれば」と思われがちですが、喫煙と塩分の多い食事も胃がんのリスクを高めることが分かっています。

前回の「5+1」の記事でお話しした、たばこと減塩の話がここでもつながってきます。菌への対応と生活習慣はどちらか一方ではなく両方です。

同じ「+1 感染」の話

明日からできること

1つ目は、ピロリ菌の検査を受けたことがあるか思い出してみること。 「胃カメラは受けたことがある」という方でも、ピロリ菌を調べたかどうかは別の話です。

2つ目は、除菌したことがある方は「その後、胃の検査を受けているか」を確認すること。 除菌して安心して、そのまま何年も、という方が少なくありません。

3つ目は、気になったら次の受診のときに聞いてみること。 「ピロリ菌って調べたことありましたっけ」の一言で十分です。

参考文献・引用元

本記事は以下の資料を参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。

【参考ガイドライン】

【参考資料】

【引用文献】

*1 日本人の出生年別のピロリ菌感染率に関する研究:Wang C, et al. (2017) Sci Rep. [PubMed


あとがき

最後まで読んでいただきありがとうございます。

ピロリ菌の除菌ってかなり手間です。胃カメラを受けてピロリ菌の結果を確認して、薬を1週間内服して、その除菌結果判定をするので、都合3-4回の病院受診が必要になってしまいます。お仕事の都合もわかりますが、途中で脱落しないように説明することを心がけています。

ピロリ菌の検査を受けたことのない方、過去に治療したけど除菌結果を確認していない方も色々都合があるでしょうが、ぜひお付き合いください。

これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

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