【医師が解説】お酒を飲まないのに、肝臓の数値が悪い|脂肪肝と「MASLD」の話

記事タイトル画像「脂肪肝とMASLD お酒を飲まないのに」。木のカウンターに置かれた、泡の立ったビールのジョッキ2つの写真。 ヘルスメンテナンス

この記事は脂肪肝についての理解を深めていただくことを目的としています。検査値の意味や治療の必要性は、お一人おひとりの状況によって変わります。ご自身だけで判断せず必ず主治医とご相談ください。

この記事が主治医との会話をより実りあるものにするきっかけになれば嬉しいです。

「お酒は飲まないんですけどね」

健診の結果を持ってこられた方に「肝臓の数値が少し高いですね」とお伝えすると、かなりの確率でこの一言が返ってきます。

「お酒は飲まないんですけどね」

まったくそのとおりで不思議に思われるのも当然です。肝臓の数値といえばお酒、というイメージが長いあいだ定着してきました。

でも、いまいちばん多い肝臓の異常はお酒とは別のところから来ています。

前回の記事で健診の検査値をひととおり見てきました。今日はそのうち、肝臓の項目をもう少し掘り下げます。

脂肪肝は「肝臓の生活習慣病」

脂肪肝はその名のとおり肝臓に脂肪がたまった状態です。

肝臓は栄養を作りかえたり貯めたりする臓器です。使いきれなかったエネルギーが余ると、その一部が脂肪として肝臓にたまっていきます。「フォアグラのような状態」と言われることもあります。

大事なのはありふれているということです。日本では成人の4人に1人ほどと言われており、健診の待合室にいる人を見渡せば何人かは当てはまる計算になります。

そしてもうひとつ大事なのが症状がほとんどないということです。だるさも痛みも出ません。肝臓が「沈黙の臓器」と呼ばれるゆえんで、この点は肝炎ウイルスの話とまったく同じ構造です。

名前が変わりました ── NAFLD/NASH から MASLD/MASH へ

ここが今日いちばんお伝えしたいところかもしれません。

この病気は、近年になって呼び名そのものが変わりました。

かつては「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」「NASH(非アルコール性脂肪肝炎)」と呼ばれていました。いまは 「MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)」「MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)」 です。日本でも、2026年4月に出た『MASLD診療ガイドライン2026(改訂第3版)』で正式に切り替わりました。

名前が長くなっただけに見えるかもしれません。でも、変わったのは中身の考え方です。

古い名前の「非アルコール性」は否定形でした。「お酒のせいではないほうの脂肪肝」という、消去法の名前です。これだと「じゃあ何のせいなのか」がまったく伝わりません。

新しい名前は「代謝機能障害と関連する」という肯定形です。血糖、血圧、脂質、体重といった代謝の問題と結びついた病気なのだ、と正面から言い直したことになります。

そしてこの言い換えには実際的な意味があります。「お酒を飲まないから自分には関係ない」で終わらせないための名前でもあるのです。

お酒との線引きは、どうなったのか

「じゃあ、お酒を飲む人の脂肪肝はどうなるの」と思われますよね。

新しい考え方では脂肪肝(脂肪性肝疾患)を飲酒量で3つに分けます。ここで使うのは「純アルコール量」というものさしです。がん予防の記事でも出てきた日本酒1合が約23g、ビール大瓶1本、7%のチューハイ350ml缶1本がだいたい同じ、というあの換算です。

MASLD

男性30g未満
女性20g未満

1日あたりの純アルコール量がこの範囲で、代謝の問題を1つ以上持っている方。いちばん人数が多いのがここです。

MetALD

男性30〜60g
女性20〜50g

代謝の問題もあり、お酒もそれなりに飲む方。今回新しく作られた区分です。

ALD(アルコール関連肝疾患)

男性60g以上
女性50g以上

お酒の影響が主と考えられる方。

注目していただきたいのは、真ん中の「MetALD」が新しく作られた区分だということです。

昔の分け方は「お酒のせい」か「お酒のせいではない」かの二択でした。でも現実には、そこそこ飲んで、かつ代謝の問題も抱えているという方がたくさんいらっしゃいます。むしろそちらのほうが多いくらいです。その人たちの居場所がなかったので真ん中を作ったわけです。

ですから「ほどほどには飲むんだよな」という方も、この話から自分を外さないでください。

「代謝機能障害」とは、何を指すのか

新しい名前の中心にある「代謝機能障害」。これは具体的に、次の5つのことを指しています。1つでも当てはまれば該当します。

  • 体格 ── BMIが23以上
  • 血糖 ── 空腹時血糖100以上、HbA1c 5.7%以上など。2型糖尿病で治療中の方も含む
  • 血圧 ── 130/85以上、または血圧の薬を飲んでいる
  • 中性脂肪 ── 150以上、または脂質の薬を飲んでいる
  • HDLコレステロール ── 男性40以下、女性50以下、または脂質の薬を飲んでいる

見覚えのある数字が並んでいると思います。健診の結果用紙にほぼ全部載っている項目です。

そして、この5つのどれかに引っかかっている方は本当に多いです。BMI 23は、身長160cmなら約59kg。決して「かなり太っている」という水準ではありません。

それぞれの数値について詳しくは → 血圧血糖コレステロール・中性脂肪

ここで大事なことを2つ。

ひとつ、やせている方でも脂肪肝になります。 BMIが基準に入っているので誤解されやすいのですが、体格は5項目のうちの1つにすぎません。体型だけで自分を除外しないでください。

もうひとつ、これは「だらしないから」という話ではありません。 体質や年齢、女性では閉経の影響もあります。原因探しではなく、いま何ができるかの話として読んでいただければと思います。

健診では、どこを見ればいいのか

肝臓の項目のうち、いちばん素直に反応するのが ALT(GPT) です。

肝臓の細胞が傷むと血液中に漏れ出してくる酵素で脂肪肝ではASTよりALTのほうが高くなる傾向があります。γ-GTPも上がりますが、これはお酒を飲まない方でも上がります。

そして2023年、日本肝臓学会が「奈良宣言2023」という目安を出しました。

ALTが30を超えていたら、一度かかりつけ医に相談を。

数字だけ見ると厳しく感じるかもしれません。実際、健康な成人の15%ほどが当てはまる水準です。

でも、それでいいのです。この30という数字は「病気だと決めつけるための線」ではなく、「話をはじめるための入口」として設けられたものだからです。相談した結果「様子を見ましょう」で終わる方がたくさんいる、という前提で作られています。

こわいのは脂肪そのものではなく、その先

ここが誤解されやすいところです。

脂肪がたまっているだけなら、大きな問題にならない方も多くいます。 「脂肪肝=いずれ肝硬変」ではありません。

問題になるのは脂肪がたまったところに炎症が起き、それが長い年月続いた場合です。炎症が続くと肝臓は少しずつ硬くなっていきます(線維化)。それがさらに進むと肝硬変になり、肝がんが発生しやすい土台になります。

この道筋は、ピロリ菌と胃がん肝炎ウイルスと肝がんの話とまったく同じ形をしています。畑にたとえるなら、土が硬くやせていくイメージです。すぐに何かが起こるわけではないのに、下地が少しずつ変わっていく。

肝炎ウイルスが肝臓にもたらす変化を、畑の土にたとえて左から右へ並べた図解。健康な肝臓(豊かな土)にB型・C型のウイルスが入り、数年〜数十年かけて炎症が続き、線維化・肝硬変で肝臓が硬くなり、やがてがんが発生する。ピロリ菌と胃がんの話と同じ構造であること、症状が出ないまま進むことが添えられている。

そしてこの記事を書いている理由がここにあります。B型でもC型でもない肝がんが増えていることは肝炎の記事でも触れましたが、その背景にあるのがまさにこの脂肪肝です。

進み具合は、どうやって見るのか

「では、自分の肝臓がどこまで進んでいるか調べるには」と思われますよね。

かつては肝生検といって肝臓に針を刺して組織を採る検査が必要でした。いまはそれが必須ではなくなっています。

採血の値と年齢から計算する指標や、超音波で肝臓の硬さを測る検査である程度の見当をつけられるようになりました。まず負担の少ない方法でふるい分けて必要な方だけ詳しく調べる、という流れです。

できること ── 減らす、動かす、控える

治療の中心はいまも生活習慣です。そして、効果がはっきりしている数少ない領域でもあります。

体重を減らす。 これがいちばん効きますが、劇的に痩せる必要はありません。もとの体重の数%減らすだけで肝臓の脂肪は減りはじめるとされ、さらに減らせれば炎症や線維化の改善も期待できると報告されています。70kgの方ならまずは3〜4kgです。

体を動かす。 「運動」と構えなくて大丈夫です。がん予防の記事でお話しした「いまより少しでも多く」がここでも当てはまります。体重が変わらなくても、体を動かすこと自体に肝臓の脂肪を減らす効果が報告されています。

お酒はやはり少ないほうがいい。 「飲まないのに脂肪肝」という話をしてきましたが、飲む方は減らしたほうがよいことに変わりはありません。 代謝の問題とお酒はどちらか一方ではなく足し算で効いてきます。

なお、薬による治療の研究も進んでいます。ただしどなたにどの薬を使うかは持病との兼ね合いで変わりますので、ここでは触れません。気になる方は主治医にお尋ねください。

明日からできること

いきなり全部は変えなくて大丈夫です。まずは3つだけ。

1つ目は、健診結果のALT(GPT)の欄を見ること。 ASTと並んでいるはずです。30を超えていないか、そして去年より上がっていないか。それだけ確認できれば十分です。

2つ目は、5つの項目のうちいくつ当てはまるか数えてみること。 体格・血糖・血圧・中性脂肪・HDL。0個でも構いません。数えることが出発点です。

3つ目は、当てはまるものがあったら結果用紙を持って受診すること。 「肝臓の数値が高いんですが、脂肪肝でしょうか」の一言で十分です。

「お酒を飲まないから大丈夫」だけは、そっと手放していただければと思います。

参考文献・引用元

本記事は以下のガイドラインを参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。

【参考ガイドライン】

あとがき

最後まで読んでいただきありがとうございます。

「お酒はそんなに飲まないんですけどね」という一言は、診察室で本当によく聞きます。決して言い訳ではなく、みなさん心から不思議に思っておられるのが伝わってきます。それだけ「肝臓の数値=お酒」というイメージが強く根づいているということでしょう。

だからこそ、名前が「非アルコール性」から「代謝機能障害関連」に変わったことには意味があると思っています。医学の名前が変わるのは面倒なことも多いのですが、これは呼び名が変わることで伝わり方が変わる、めずらしく良い変更だと感じています。

そしてもうひとつ。脂肪肝と言われた方の多くはそこまで深刻にならずに済みます。ただ一部の方は、何十年もかけて静かに進みます。その一部に自分が入るかどうかは、調べてみないとわからない。 これはこのブログで何度もお話ししてきたこととまったく同じ話です。

これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

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