【医師が解説】がん検診、結局どれを受ければいいの?|国が勧めているのは5つだけ

記事タイトル画像「がん検診について/健康診断とは別物です」。木目のテーブルに「TO DO」と並べた木製ブロック、白い無地のメモ帳、鉛筆、コーヒーカップが置かれている。 ヘルスメンテナンス

この記事はがん検診についての理解を深めていただくことを目的としています。すでに気になる症状がある場合、がん検診はその答えを出す検査ではありません。「次の検診まで待とう」とご自身だけで判断することは避けてください。

最終的な検査や治療の方針は、必ず主治医とよく相談の上で決めてください。この記事が主治医との会話をより実りあるものにするきっかけになれば嬉しいです。

「健康診断は毎年受けてます」——それ、がん検診は入っていますか?

診察室でこんな会話をよくします。

「がん検診は受けていますか?」 「はい、会社の健康診断を毎年受けてますから大丈夫です」

我々の聞き方にも問題はありますが、実はここに大きな落とし穴があります。

会社が行う「定期健康診断」や健康保険組合が行う「特定健康診査」は、法律で年1回の実施が義務づけられています。一方で、がん検診の実施は任意です。つまり健康診断を毎年きちんと受けていても、がん検診は1度も受けていない、ということが普通に起こります。

「毎年受けているから安心」と思っていた方は、ぜひこの記事を最後まで読んでみてください。逆に「がん検診って、結局どれを受ければいいの?」と迷っていた方にも、答えを1枚にまとめてお持ち帰りいただけます。

がん検診は3つの入り口がある

日本のがん検診は、大きく3つに分かれます。

  • 住民検診:お住まいの市区町村が実施するもの。規定の年齢に達していれば、基本的にどなたでも受けられます
  • 職域検診:勤務先や健康保険組合が実施するもの。ただし前述のとおり、実施するかどうかは任意です
  • その他:人間ドックなど、個人が自分の意思で受けるもの

大事なのは、この3つのどれかで受けられていればよい、ということです。職場の健診案内が届いたら、まず「がん検診の項目が入っているか」を確認してみてください。入っていなければ、お住まいの市区町村の住民検診を利用する手があります。

お勤め先を退職された方は、職域検診という入り口がなくなります。ここで検診が途切れてしまう方が少なくないので、退職後は市区町村の案内に目を通していただきたいところです。

国が勧めているがん検診は、たったの5つ

「がん」と名のつく検査は世の中にたくさんありますが、国が「受けてください」と推奨しているがん検診は5種類だけです。

胃がん検診

対象年齢50歳以上
受診間隔2年に1回

問診+胃部X線検査(バリウム)
または胃内視鏡検査(胃カメラ)

バリウムか胃カメラかは、ご自身で選べます(※)。なお当分の間、40歳以上・1年に1回のバリウム検査も認められています。

大腸がん検診

対象年齢40歳以上
受診間隔1年に1回

問診+便潜血検査(免疫法)

肺がん検診

対象年齢40歳以上
受診間隔1年に1回

問診+胸部X線検査(レントゲン)

乳がん検診

対象年齢40歳以上
受診間隔2年に1回

問診+マンモグラフィ(乳房のX線検査)

視診・触診だけで済ませることは勧められていません。

子宮頸がん検診

対象年齢20歳以上
受診間隔2年に1回

問診・視診+子宮頸部の細胞を採って調べる検査+内診

30歳以上の方は、お住まいの自治体によっては「HPV検査」(5年に1回)になることがあります。細胞の採り方はどちらも同じで、調べ方と次の案内が来る間隔が違うだけです。届いた案内の間隔に従っていただければ大丈夫です。

※バリウムか胃カメラかは選べることになっていますが、お住まいの自治体によっては一方しか実施していないこともあります。案内をご確認ください。

「たった5つ?」と思われたかもしれません。日本人のがんによる死亡は年間38万人にのぼり、死因の第1位です。それなのになぜ5つに絞られているのでしょうか。

「科学的根拠がある」とは、どういう意味か

ここが今日いちばんお伝えしたいところです。

この5つは、「その検診を受けた人たちのほうが、そのがんで亡くなる人が少なかった」ことが、きちんと手順を踏んだ研究で確かめられている検診です。

「最新の機械を使っている」「有名な専門家が勧めている」ということとは、まったく別の話です。新しいこと・精密であることと、命を救えることは、必ずしもイコールではありません。

そして国は、単に「効果があるかどうか」だけでなく、もう一つの条件も見ています。それが、利益が不利益を上回っているか、という点です。

「検診に不利益なんてあるの?」と思われるかもしれません。ここが、あまり知られていない部分です。

検診には、確かに「不利益」がある

がん検診を受けた方は誰でも、次の4つに出会う可能性があります。数字ではなく、たとえ話でご説明します。

① 偽陰性(ぎいんせい)——網の目をすり抜ける

実際にはがんがあるのに、「異常なし」と判定されてしまうことです。

がんは、発生してからある程度の大きさになるまでは、どんな検査でも見つけられません。魚を獲る網に例えるなら、まだ網の目より小さい魚は通り抜けてしまう、というイメージです。

だからこそ、検診は1回で終わりではなく、決められた間隔で受け続けることに意味があります。 そして、前回「異常なし」だったとしても、その後に気になる症状が出てきたときは、次の検診を待つのではなく医療機関で相談してください。

② 偽陽性(ぎようせい)——本当はがんがないのに、疑いありと出る

がん検診の仕組みは、まず「がんかもしれない人」を広めに拾い上げて、その中から本当にがんの人を精密検査で見つける、という二段構えになっています。

網を細かくすればするほど、魚だけでなく小石や海藻まで一緒に入ってきます。「魚かもしれないもの」を全部引き上げてから、あとで仕分けているイメージです。この構造上、偽陽性をゼロにすることはできません。結果として、本来は必要のなかった検査を受けることになり、結果が出るまでの間、不安な日々を過ごすことになります。

③ 過剰診断(かじょうしんだん)——見つけなくてもよかったがんを見つけてしまう

4つの中で、いちばん理解しづらいのがこれだと思います。

がんの中には、成長がきわめて遅く、放っておいてもその人の命を脅かさないものがあります。これを検診で見つけてしまうことを、過剰診断といいます。

やっかいなのは見つかったがんが「放っておいてよいもの」なのか「治療すべきもの」なのかを、正確に見分けることが難しい点です。そのため、結果として治療が行われます。体への負担も、心の負担も、お金の負担もかかります。

「見つかるなら見つかったほうがいい」——そう思うのが自然です。気持ちはよくわかります。ただ、検査を増やせば増やすほど、この過剰診断も一緒に増えていく、という関係にあります。

④ 偶発症(ぐうはつしょう)——検査そのものによるトラブル

検査そのものが体にトラブルを起こしてしまうことです。内視鏡による出血、バリウムを飲んだあとの腸閉塞や誤嚥、放射線の被ばくなどが挙げられます。頻度は高くありませんが、ゼロではありません。


年齢と間隔が決まっているのには、理由がある

表を見て「40歳より前に受けちゃダメなの?」「毎年受けたほうが安心じゃない?」と思われたかもしれません。

表より若い年代ではそもそもそのがんにかかる人が少ないため、本物のがんが見つかる数に比べて偽陽性や過剰診断の数のほうが多くなってしまいます。つまり、利益より不利益が大きくなります。

間隔を詰めて受ける場合も同じです。回数を増やしても利益はあまり増えないのに、不利益だけは受けた回数の分だけ確実に積み上がっていきます。

年齢と間隔は「これくらいが、いちばん割に合う」という線をデータから引いたものです。少なめに設定されているわけではありません。

なお、健康診断のオプションにがん検診が入っていてもご自身の年齢に合っていなければ、受けるかどうかは検討してよい項目です。がん検診は法律で義務づけられた項目ではないため、受けなかったことで健康診断そのものが受けられなくなるようなものではありません。運用が気になる場合は勤務先や健康保険組合の窓口に確認してみてください。

また、ここまでの話は「症状もなく、特別なリスクもない方」を前提にしたものです。ご家族にがんの方がいる、ピロリ菌の除菌を受けたことがある、肝炎を指摘されたことがあるといった場合は、この表とは別の間隔で検査をしたほうがよいことがあります。当てはまる方は一度主治医にご相談ください。

【コラム】アメリカには「胃がん検診」がありません

少し意外な話をします。アメリカの予防医療の指針には、胃がん検診という項目がそもそも存在しません。 日本では5つのうちの1つなのに、です。

これはアメリカが胃がん検診をやってみて「効果がなかった」からではありません。アメリカでは胃がんになる人が、日本と比べてずっと少ないからです。

ここですぐ上の年齢の話を思い出してください。その病気になる人がもともと少ない集団で検診を行うと、拾い上げられる本物のがんより偽陽性や過剰診断のほうが目立ってしまう。若い年代に検診が勧められないのと、まったく同じ理屈が国と国のあいだにも当てはまります。

逆に言えば、日本で胃がん検診が推奨されているのは日本人に胃がんが多いからです。同じ検査でも、誰に対して行うかで価値はまったく変わります。ですから「海外では受けていないらしい」という情報を見かけても、それをそのままご自身に当てはめないでください。

がん検診に世界共通の正解表はありません。その国、その年代の事情に合わせて設計されるものなのです。


人間ドックのオプション、どう考えるか

人間ドックの申込書には、CT、PET、腫瘍マーカーといった魅力的な選択肢が並んでいます。最近では、血液や尿でがんのリスクを調べるという新しい検査も出てきました。

これらが5つのリストに入っていないのは、「効果がないと証明されたから」ではありません。「がんで亡くなる人を減らせるかどうかが、まだわかっていないから」です。ここは大事な違いです。

たとえばCTやPETはすでにがんと診断された方の再発や転移を調べる検査としては、非常に重要な役割を果たしています。どの検査が優れている・劣っているという話ではなく、「症状のない人の中からがんを探す」という使い方については、まだ答えが出ていない、ということです。

一方で、効果がはっきりしないまま受けても先ほどの4つの不利益は必ず一定の割合で起こります。

受けてはいけない、という話ではありません。ご自身が納得したうえで受けることがいちばん大切です。迷ったときは、勤務先や健康保険組合の窓口、あるいは主治医に「これは何のための検査で、結果が出たら次に何をするのか」を聞いてみてください。

「要精密検査」の紙が届いたら

最後に、検診結果の見方を一つだけ。

がん検診の結果は、基本的に「がんの疑いなし(精密検査不要)」か「がんの疑いあり(要精密検査)」のどちらかで返ってきます。特定健診の結果と同じ封筒で届くことが多いので、がん検診として受けた項目の欄(大腸がん検診なら便潜血検査、胃がん検診なら胃部X線/胃内視鏡)を見てください。

そして、「要精密検査」と書かれていた場合。

まず知っておいていただきたいのは、精密検査を受けた方のうち実際にがんが見つかるのはごく一部だということです。国の統計(令和元年度)では、要精密検査となった方のうちがんが見つかった割合は胃がんで約1.9%(約50人に1人)、大腸がんで約3.1%(約30人に1人)、肺がんで約2.8%(約35人に1人)、乳がんで約5.6%(約18人に1人)、子宮頸がんで約1.4%(約70人に1人)でした。

ですから、その紙が届いてもまだ何も決まっていません。過度に思い詰めなくて大丈夫です。

ただし——だからこそ受けないでいい、にはなりません。 精密検査を受けて初めて「がんではなかった」とわかるのであって、そのごく一部に自分が入るのかどうかがわからないままになってしまいます。

明日からできること

いきなり全部は変えなくて大丈夫です。まずは3つだけ。

1つ目は、自分がいま何歳でどの検診の対象なのかを確認すること。 上の表をもう一度見て、当てはまるものにチェックを入れてみてください。

2つ目は、手元にある健診の結果と案内を見返すこと。 「がん検診」として何を受けたか(あるいは受けていないか)が書かれているはずです。

3つ目は、抜けているものがあれば市区町村の窓口を調べること。 「(お住まいの市区町村名) がん検診」で検索すれば、対象・費用・申込方法が出てきます。多くの自治体で費用の補助があります。


参考文献・引用元

本記事は以下の資料を参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。

【参考資料】


あとがき

最後まで読んでいただきありがとうございます。

この記事で一番伝えたいことは、がん検診をそもそも受けていない、存在を知らない方が一定数いるということです。特に女性は、20歳になればどなたも子宮頸がん検診の対象年齢に入ります。次いで胃がん、肺がん、大腸がん検診の適応となる中高年の方たちです。

職場の検診を受けていれば安心と思っている方も多いですが、これらをすべて網羅していないことも多々あります。また自営業の方だと職場の検診というものがなく、検診が漏れてしまいます。こういった情報は自治体から案内が来ますが、郵便物に紛れてそもそも目に触れずに捨てられてしまうことも多くあります。自治体も一人ひとりの受診状況を追いかけて催促してくれるわけではありませんので、自身で行動する必要があります。

知人の女性と雑談していて、子宮頸がん検診を受けていないことがわかりました。そこで受診を勧めたところ先日検査を受けてきたと報告してくれました。

ヘルスリテラシーという、自分の健康について自分で調べて判断する力が必要になります。この記事が皆さんの助けになればと思います。

次回は、5つの中でいちばん身近でいちばん「放置されやすい」大腸がん検診——便潜血検査についてお話しします。

これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

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