毎年秋になると、「今年もインフルエンザの予防接種、受けたほうがいいのかな」と迷う方は多いと思います。「打ったのにかかった。意味ないのでは?」という声もよく聞きます。
ただ、今シーズンはいつもの年と少し事情が違います。2026/27シーズンは、8月のうちに全国で流行入りしました。 昨シーズンより1か月以上早く、1999年以降で2番目の速さになります。「予防接種は11月くらいでいいかな」と例年どおりのつもりでいると、効果が出るころには流行がかなり進んでいる、ということが起こりえます。
インフルエンザワクチンは、その「効果の意味」と「打つタイミング」を知っておくことで、ぐっと納得して打てるようになるワクチンです。今回は、ワクチンの種類・今年の打ちどき・よくある誤解を整理してお話しします。
ワクチンは「かからない」より「重くしない」ためのもの
まず、いちばん大事な考え方からです。
インフルエンザワクチンは感染や発症を100%防ぐものではありません。 ここを誤解していると「打ったのにかかった=無意味」と感じてしまいます。
ワクチンのいちばんの役割はかかったときに重症化するのを防ぐことです。具体的には、肺炎などの合併症、入院、そして亡くなるリスクを下げる効果がはっきり示されています。特に高齢の方や持病のある方ではこの「重くしない」効果が大きな意味を持ちます。
「かからないための保険」ではなく、「かかっても軽く済ませるための備え」で自転車のヘルメットに近いかもしれません。転ぶこと自体は防げませんが、ケガの重さは変えてくれます。この感覚を持っておくと、ワクチンとの付き合い方がすっきりします。

ワクチンの種類 ── 基本は「注射の1種類」です
「どれを選べばいいですか」と聞かれることがあります。ただ正直なところ、多くの方にとって選ぶ場面はほとんどありません。
日本で広く使われているのは、標準的な注射の不活化ワクチンです。ウイルスの一部を使った生きていないワクチンで、幅広い年齢の方が接種できます。妊婦さんも打てます。予防接種と聞いて思い浮かべるのは、まずこれだと考えて大丈夫です。
このほかに、条件が合う方だけが対象になるものが2つあります。
- 鼻にスプレーするタイプ:対象は2歳以上19歳未満に限られます。ぜんそくのある方、免疫が下がっている方などは受けられないことがあります
- 高用量タイプ:60歳以上向けに、抗原(ウイルスの成分)の量を増やしたものです
ここで一つ、言葉の印象について補足させてください。「高用量」と聞くと、つい「強い」「よく効く」と読みたくなります。ただこれは、含まれる成分の量が多いという意味です。年齢とともに免疫の反応は弱まっていくので、その分を補う狙いで作られたもので、高齢の方ではその上乗せが期待されています。
とはいえ、現実的な事情もあります。この2つは、取り扱っている医療機関が限られます。インフルエンザワクチンは季節が来ると一度に多くの方が接種するため、どの医療機関でも全種類を揃えられるわけではないのです。近所のクリニックにない、ということは普通にあります。
そして、「高用量でなければ意味がない」ということはありません。 重症化を防ぐという、ワクチンのいちばん大事な仕事は標準の注射がしっかり果たしてくれます。
ですから「どのタイプを打ちますか」と考えるより、「今の自分に打てるものはありますか」とかかりつけ医に聞くほうが、ずっと実用的です。そのうえで打てるものを打つ。それで十分です。
だれが「定期接種(公費)」の対象?
インフルエンザワクチンは定期接種(B類)に位置づけられています。「強制ではなく、希望する人が打つ」「費用の一部に公費の助成が入る(自己負担は残る)」という仕組みです。対象は次の方で、毎年1回、公費の助成を受けて接種できます。
- 65歳以上の方
- 60〜64歳で、心臓・腎臓・呼吸器に重い持病がある方、またはHIVによる重い免疫障害がある方
これ以外の方(働く世代やお子さんなど)は任意接種となり、原則自己負担です。ただし自治体や勤務先が独自に費用を補助していることもあるので、確認してみてください。
なお、65歳以上の方が対象になる定期接種はインフルエンザだけではありません。肺炎球菌ワクチンも同じB類で、2026年4月から新しい仕組みになりました。こちらは「肺炎球菌ワクチンが大きく変わる」にまとめてあります。
いつ打つのがいい? ── 今シーズンは「前倒し」で
ワクチンの効果は接種してすぐに出るわけではありません。約2週間後から立ち上がり、おおむね5か月ほど続くとされています。この「2週間」が、今年はとても大事になります。
例年であれば、インフルエンザの流行は12月〜翌3月ごろ。そこから逆算して「10月〜11月に打っておけば間に合う」というのが、これまでの一般的な目安でした。
ところが今シーズンは8月の時点ですでに流行が始まっています。日本ワクチン学会も2026年9月、接種開始時期の前倒しを含めた柔軟な接種体制が大切だという見解を示しました。
ですから今年については、「例年どおりでいいか」と構えずに、接種できる状況が整ったら早めにと考えるほうが安心です。特に、高齢の方・持病のある方・小さなお子さんなど重症化しやすい立場の方はなおさらです。かかりつけ医に「もう打てますか」と一度聞いてみてください。
一方でこう思われた方もいるかもしれません。「もう流行が始まっているなら、今さら打っても遅いのでは?」
そんなことはありません。 インフルエンザの流行は年をまたいで長く続きますし、シーズンの途中で流行の波がもう一度来ることもあります。早い流行入りだった年でもこれから打つ意味は十分にあります。「出遅れた」と諦めてしまうのがいちばんもったいないです。
よくある質問
Q. 卵アレルギーがありますが打てますか?
国内の不活化ワクチンはごく微量の卵由来成分を含むため注意が呼びかけられていますが、多くの卵アレルギーの方は接種可能です。過去に強いアレルギー反応(アナフィラキシーなど)が出たことがある方は、必ず事前に医師に申し出てください。接種後の経過観察を含め医療機関で安全に進められます。
Q. 妊娠中ですが打てますか?
不活化ワクチン(注射)は妊娠中のどの時期でも接種可能とされています。妊婦さんは重症化しやすいため、むしろ接種が勧められます。詳しくは産科の主治医に相談してください。
Q. 新型コロナや帯状疱疹のワクチンと同時に打てますか?
不活化ワクチンどうしの同時接種は可能とされています。接種部位を分けるなどして行います。組み合わせによっては注意が必要なこともあるため、医療機関で確認してください。帯状疱疹ワクチンそのものについては「知っておきたい帯状疱疹ワクチン」で詳しくお話ししています。
Q. どんな副反応がありますか?
注射した部分の痛み・赤み・腫れ、微熱、だるさなどが多く、いずれも数日でおさまることがほとんどです。
予防接種救済制度
予防接種は感染症を防ぐために重要なものですが、ごくまれに健康被害(病気になったり障害が残ったりすること)が起こることがあります。極めて稀ではあるものの、副反応による健康被害をゼロにすることはできないため、救済制度が設けられています。
定期接種で健康被害が生じた場合は、予防接種を受けた時に住民票のあった市町村に相談してください(こちら)。
参考資料
本記事は以下の資料を参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。
【参考ガイドライン・サイト】
- 日本ワクチン学会『2026-27期の季節性インフルエンザワクチンの接種に関する日本ワクチン学会の見解』(2026年9月16日)
- 厚生労働省『インフルエンザワクチン(季節性)』
- 国立健康危機管理研究機構『感染症発生動向調査週報(IDWR)』
- 世界保健機関『Influenza vaccines: WHO position paper』
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は仕事柄注射をする立場にありますが、注射をされるのはとても苦手です。毎年のことなので「面倒だな」と感じる年もあります。それでも毎年接種を受けています。
お仕事、家庭の都合があると思いますが、それでもご自身やご家族のうち、重症化しやすい人が一人でもいるなら打っておく価値は十分にあります。
今年は流行の入りが早い分、「そろそろかな」と思ったときが打ちどきです。今年はどうするか、かかりつけの先生と話すきっかけにしていただければ嬉しいです。
「ほかに受けておいたほうがいいものはあるのかな」と気になった方は、「何歳で、何を受ければいいのか|検査とワクチンの年齢別カレンダー」もあわせてどうぞ。
これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

