【医師が解説】梅毒は『症状が消える』病気|だから怖い、だから検査を

梅の花とメジロ|いま急増する梅毒について解説する記事のアイキャッチ画像 感染症・予防接種

この記事は梅毒についての理解を深めていただくことを目的としています。ご自身で症状を判断したり、薬の服用を中止したり、量を変更したりすることは絶対におやめください。

最終的な治療方針は、必ず主治医とよく相談の上で決めてください。この記事が主治医との会話をより実りあるものにするきっかけになれば嬉しいです。

「梅毒って最近よく聞くけど、実際どうなの?自分には関係ないよね。」

おそらく大抵の方はこのように思っているのではないでしょうか。

国立感染症研究所のデータによると、日本国内の梅毒の届出数は2010年には全国で約620件だったのに対し、2023年には1万4906件と、20倍以上に膨らんでいます。これは戦後ピークの水準で先進国のなかでも日本はとくに増えている状況です。

「自分には関係ない病気」と思っているうちに、実はとても身近な病気になってきている——今回は、そんな梅毒について、症状の段階・検査・治療・パートナーへの伝え方まで、丁寧にお話しします。中高生含め、どの年代、性別の方にもぜひ知ってもらいたいと思っています。

梅毒って、どんな病気?

梅毒(ばいどく)は、「梅毒トレポネーマ」という細菌が原因の感染症です。主に性的な接触(粘膜と粘膜の接触)によって感染します。コンドームでも完全には防げませんが、感染リスクを下げる有効な手段です。

ただし、症状の出かたが特徴的で放置すると体のあちこちに影響が及ぶ——ここが梅毒の怖さでもあり、誤解されやすいところでもあります。

梅毒は「症状が消える」病気——だから怖い

梅毒の症状は感染してから時間の経過とともに、いくつかの段階に分かれて現れます。そして特徴的なのは、症状がいったん消える時期があること。「治った」と勘違いして放置されることが、この病気の進行を許してしまう最大の原因です。

① 第1期梅毒(感染後 約3週間〜)

  • 感染した場所(性器・口・肛門など)に 痛みのないしこりができる
  • やがて中央にただれ(潰瘍)ができる
  • 太もものつけ根のリンパ節が腫れる

痛みがなく気づきにくいうえに、数週間で 自然に消えてしまいます。なかなか泌尿器科に行くのは恥ずかしくて様子を見ていたら「治ったのかな」と思って受診しないまま、次の段階に進んでいきます。

② 第2期梅毒(感染後 約3か月〜数か月)

体の中で菌が血液に乗って広がり、

  • 全身に発疹が出る(手のひらや足の裏にも出るのが特徴)
  • 顔・体に バラの花びらのような赤い斑点(「バラ疹(しん)」)
  • 発熱・だるさ・喉の痛み・リンパ節の腫れ
  • 髪がまばらに抜ける

このときも、多くの場合は痛みがなく数週間〜数か月で症状はまた消えます。風邪と思って受診したら見つかった、皮膚科で気付かれた、というケースが多いのが第2期です。

③ 潜伏期梅毒——症状なしで何年も

第2期の症状が消えると、何年も症状がない時期が続きます。本人は完全に「治った」と感じているかもしれません。でも体の中には菌が残ったままになります

この間も他の人にうつす可能性は残ります。

④ 第3期・晩期梅毒(感染後 数年〜数十年)

放置すると最終的に、

  • 皮膚や骨に ゴム腫(こぶのような塊)
  • 心臓・大動脈の障害(大動脈瘤など)
  • 神経梅毒(認知症のような症状・歩行障害・視神経障害)

といった全身の合併症が出てきます。ここまで来ると治療しても元に戻らない部分が出てきます。

現代の日本では治療が広く行われているため第3期まで進む方は少なくなりましたが、「症状が消えた=治った」、ではないことだけはぜひ覚えておいてください。

妊娠中の感染——「先天梅毒」という問題

梅毒で特に深刻なのが妊娠中の感染です。妊婦さんが梅毒に感染していると、胎盤を通じて赤ちゃんにも感染してしまいます。これを先天梅毒と呼びます。

先天梅毒では以下のような深刻な影響が出ることがあります。

  • 流産・死産
  • 早産・低出生体重
  • 赤ちゃんに皮膚・骨・神経・目・耳の障害

日本でも近年梅毒の全体数が増えていることもあって、先天梅毒の報告数も増えています。妊婦健診で梅毒検査を必ず受ける理由はここにあります。

コラム:妊娠を考えている方へ

妊娠を計画している方、ぜひ「プレコンセプション・ケア」など妊娠前の感染症検査の機会に、梅毒も含めた検査を受けておいてください。万一感染が分かっても、妊娠前・妊娠初期のうちに治療すれば、赤ちゃんへの影響は大きく減らせます

パートナーも一緒に受けるのが理想です。「自分は大丈夫」と決めつけず、お互いを守るための検査だと考えてみてください。

なぜそんなに流行ってるの?

梅毒が増えた原因は一つには絞れませんが、いくつか紹介しようと思います。

①『もう大丈夫』——そう思わせるのが得意です

先ほども少しお話ししましたが、梅毒の特徴として痛みがないことが多い、さらには自然に症状が消えることにあります。

そのために「症状が消えた=治った」、ではないことを念頭におくべきです。

②病院受診までのタイムラグ

泌尿器、婦人科周りの症状が突然出た場合に、病院を受診するのは恥ずかしいと思います。医療者である私でも少しためらってしまうでしょう。

実際にそれを調べたデータがあるので紹介します。少し古い海外のデータになりますが、症状が出てから病院を受診するまで男性で6日女性で9日かかった※1、と言われています。

やはりデリケートな部分になるため、受診をためらってしまうのはいつでもどこでも同じようです。でも考えてみてください。診察する医療スタッフは、毎日のように同じような相談を受けています。あなたの状況が「特別」でも「珍しい」でもありません。

医療現場では、

  • 守秘義務で職場・家族に勝手に連絡することはない
  • 保険を使わない自由診療保健所の無料検査 の選択肢もある
  • オンライン診療で検査キットを取り寄せられる施設もある(精度は対面検査がベター)
    • 自己採取は採取手技により精度が落ちる場合があり、結果が陰性でも症状があれば医療機関の受診を

——と、受診のハードルを下げる工夫がいろいろあります。

③SNSの普及

マッチングアプリやSNSの普及で見知らぬ人と簡単に出会えるようになり、不特定多数と性的接触を持つ人が増えた可能性が指摘されています。ただし性感染症学会の専門家も、アプリの影響をデータで示すのは難しいと述べており、あくまで「背景の一つではないか」という見立てである点は押さえておくべきです。

検査は血液検査で——「気になったら受ける」を当たり前に

梅毒の検査は、血液を少し採るだけでできます。難しい検査でも痛い検査でもありません。

検査の流れ

主に2種類の検査を組み合わせます。

  • RPR法(または STS法):感染後の炎症を反映する検査。治療効果のモニタリングにも使う
  • TP抗原検査(TPHAなど):梅毒の菌に対する抗体を見る検査。一度感染すると一生陽性のことが多い

この2つを組み合わせて、

  • 新しい感染なのか、過去の感染なのか
  • 治療が効いているか

を判断していきます。

CHECK:こんなときは梅毒検査を考える

  • 不特定多数のパートナーとの接触があった
  • 新しいパートナーができた
  • コンドームなしの性交渉があった
  • 性器・口・肛門に痛みのないしこり・ただれが出た
  • 手のひら・足の裏を含む全身に発疹が出た
  • パートナーが梅毒と診断された
  • 妊娠を考えている/妊娠した
  • HIVなど他の性感染症と診断された(一緒にチェック)

「あれ、これって梅毒かな?」と少しでも頭をよぎったら、ためらわず泌尿器科・婦人科・皮膚科、もしくは保健所に相談してください。

コラム:保健所の無料・匿名検査

多くの自治体の保健所では、梅毒・HIVなどの性感染症検査を無料・匿名で受けられます。「病院は勇気がいる」「保険を使いたくない」という方の選択肢になります。お住まいの自治体名と「保健所 梅毒検査」で検索してみてください。

公的な検査なので結果は秘密が守られます。原則として「検査を受けた事実」が職場や家族に伝わることはありません。

いちばん難しい話——パートナーへの伝え方

梅毒で医学的な部分以上に難しいのが、パートナーに伝えることです。

「言いにくい」「関係が壊れるかもしれない」「自分を責められるかもしれない」——いろいろな感情が渦巻くと思います。気持ちはよく分かります。

ただパートナーに伝えないと

  • パートナーが知らないうちに進行する可能性
  • 治療しても再感染するピンポンの繰り返し(お互いにうつし合うこと)
  • パートナーと妊娠を考えているなら、赤ちゃんへの影響

——といった事態を防げません。

伝え方の工夫

  • 自分が検査で陽性だった、だから一緒に検査を受けてほしい」というシンプルな伝え方
  • 最近検査を受けて、こういう結果が出た。あなたにも検査を受けてほしい
  • 主治医・保健所のスタッフから、「パートナー通知」という形でサポートしてもらえる場合もある

「責める」のではなく、「一緒に対処する」スタンスで伝えるのが、関係を守ることにもつながります。

医療スタッフはこうしたパートナーへの説明にも慣れています。「どう伝えればいいか分からない」と相談すれば、一緒に考えてくれるはずです。

まとめ

  • 梅毒は 日本で急増中 の感染症。「過去の病気」ではない
  • 症状は 第1期(しこり)→ 第2期(発疹)→ 潜伏期 → 第3期 と段階を踏んで進む
  • 症状が一度消えても「治った」ではない——体の中に菌は残っている
  • 妊娠中の感染は赤ちゃんに重大な影響(先天梅毒)
  • 検査は 血液検査 で、保健所では 無料・匿名 で受けられる自治体も
  • パートナーへの通知・同時治療が 再感染を防ぐカギ
  • 「恥ずかしさ」より「知ること・調べること」が自分と相手を守る

今回は取り上げませんでしたが、適切な治療を受ければ梅毒は治る——そのシンプルな事実も、ぜひ覚えておいてください。

参考文献・引用元

本記事は以下の資料を参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。

【参考ガイドライン】

【引用文献】

*1 思春期における性感染症の受診行動:Fortenberry JD. Am J Public Health. (1997) [PubMed


あとがき

最後まで読んでいただきありがとうございます。

冒頭にも書きましたが、全ての年齢、性別の方に知っていただきたい内容になります。現代においていつ自分が当事者になるかわからないので、いざ当事者になったときに少なくともどうしたらいいかの知識をつけておいてください。

あと梅毒を含めた性感染症は目の前の患者だけでなくパートナー含めた患者の治療が大事になります。そこが難しいところですが、我々も協力しますので一緒にやっていきましょう。

これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

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