前回の記事では国が勧めているがん検診が5つあることをお話ししました。今日はその中でいちばん受ける人が多く、そしていちばんそのまま放っておかれやすい検査の話をします。
大腸がん検診、つまり便潜血(べんせんけつ)検査です。
40歳以上の方なら、健診の案内に小さな容器が同封されていたのを見たことがあるかもしれません。あの検査で「陽性」、つまり「がんの疑いあり(要精密検査)」と出たとき、多くの方がこう考えます。
「でも、血なんて見えなかったけど」「痔があるから、そのせいだと思う」
気持ちはよくわかります。ただ、この2つはいずれも検査を受けた意味をなくしてしまう考え方です。今日はその理由をひとつずつ解きほぐしていきます。
そもそも便潜血検査は、何を見ているのか

名前のとおり、便に潜んでいる血を探す検査です。
大事なのは「潜んでいる」の部分です。がんやポリープが大腸にできると、そこから出血することがあります。でもその量はごくわずかで、目で見てもまったくわかりません。 便が赤くなるほどの出血はこの検査が想定しているものではありません。
ですから「血なんて見えなかった」はこの検査の結果を否定する理由になりません。むしろ、見えない血を見つけるためにやっている検査です。
もうひとつ知っておくと安心なのが、いま使われているのが免疫法という方法だということです。これはヒトの血液にだけ反応する仕組みなので、前日に肉を食べたとか鉄剤を飲んだといったことで結果が変わりません。検査前の食事制限も必要ありません。
なぜ2日分も採るのか
採便容器が2本あって、面倒だと思われた方もいるはずです。あれには理由があります。
大腸がんは毎日出血しているわけではないのです。
出血する日もあればしない日もあって、1日分だけだとたまたま出血していない日に当たって見逃してしまう可能性があります。だから2日分を採って拾い上げる網を少し広くしているわけです。
そして、ここが大事なところです。
2日のうち1日だけ陽性だった場合も、精密検査の対象になります。
「2回のうち1回だけだから、たまたまでしょう」ではありません。むしろ「毎日出血するとは限らない」という前提で作られた検査なので1日分の陽性にも意味があります。
「陽性=がん」ではありません
ここまで読んで不安になった方もいるかもしれないので、先に数字をお伝えします。
国の統計(令和5年度)では大腸がん検診で「要精密検査」と判定された方のうち、実際に大腸がんが見つかったのは約3.1%でした。おおよそ30人に1人という割合です。
つまり、要精密検査の紙が届いた方のおよそ29人はがんではない、ということになります。 過度に思い詰める必要はありません。
ただ、この数字には裏側があります。「自分がその29人のほうだ」と証明できるのは精密検査を受けたあとだけだということです。受けなければ、29人のほうだったのか1人のほうだったのかが、わからないまま残り続けます。
いちばん多い勘違い ── 次は「もう一度の便検査」ではありません

ここが今日いちばんお伝えしたいところです。
「要精密検査」と言われたとき、もう一度便潜血検査を受ければいいと思っている方が多くいらっしゃいます。
そうではありません。
便潜血検査をもう一度受けることは、精密検査の代わりになりません。
考えてみると当たり前で、同じ検査をもう一度やっても「血が混じっているかどうか」がわかるだけです。どこから、なぜ出血しているのかは大腸の中を直接見なければわかりません。
大腸がん検診の精密検査で最初に行われるのは、全大腸内視鏡検査、いわゆる大腸カメラです。下剤で大腸を空にしてから、肛門から内視鏡を入れて直腸から盲腸まで全体を観察します。ポリープが見つかればその場で取れることもあります(状況によっては日を改めます)。
「痔があるから」で片づけないでください
これも本当によく聞きます。
痔をお持ちの方が便潜血陽性になったとき「いつもの痔だ」と考えるのはごく自然です。実際、痔から出血していることも多いでしょう。
ただし、痔があることと大腸にポリープやがんがないことは、まったく別の話です。 痔がある人でも大腸がんにはなりますし、そのとき出血の原因が痔なのかがんなのかは大腸の中を見ないと区別がつきません。
「痔があるから陽性なんだろう」という推測は当たっているかもしれません。でもそれは、精密検査で確かめて初めて「当たっていた」と言えることです。
「陰性」だったときにも、知っておいてほしいこと
逆に「がんの疑いなし(精密検査不要)」と出た方へ。
前回の記事で偽陰性の話をしました。がんがあってもその日たまたま出血していなければ検査には出ません。網の目をすり抜ける魚がいる、という話です。
だからこそ、大腸がん検診は1年に1度と決められています。1回で完璧に見つける検査ではなく、毎年くり返すことで見逃しを減らしていく設計になっているのです。
そして、陰性だったとしてもその後に気になる変化があるときは次の検診を待たずに医療機関で相談してください。検診はあくまで「症状のない人」のための仕組みです。
大腸カメラで異常なしだったのに、また陽性のとき
大腸カメラを受けて「異常なし」と言われた方がその後の便潜血検査で陽性になることがあります。
この場合にもう一度大腸カメラを受けるべきかどうかは、実はまだ国としての方針が定まっていません。 大腸に病変がなくてもくり返し陽性になる方がいるためです。
こういうときは、かかりつけ医、あるいは検診を受けた機関に相談してください。
明日からできること
いきなり全部は変えなくて大丈夫です。まずは2つだけ。
1つ目は、手元の健診結果で「便潜血検査」の欄を見ること。 特定健診の結果と同じ封筒に入っていることが多いので、がん検診として受けた項目の欄を探してみてください。
2つ目は、もし「要精密検査」になっていてまだ受けていなければ、消化器内科のある医療機関に予約を入れること。 結果通知に精密検査ができる医療機関のリストが同封されていることもあります。なければ、検診を受けた機関やお住まいの市区町村の窓口に聞けば教えてもらえます。
去年の封筒がまだどこかにある、という方も少なくありません。時間が経っていてもいまからで大丈夫です。
参考文献・引用元
本記事は以下の資料を参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。
【参考資料】
- 国立がん研究センター がん情報サービス『大腸がん検診について』
- 厚生労働省『がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(令和7年12月24日 一部改正)』
- 厚生労働省『地域保健・健康増進事業報告』(令和5年度)
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます。
大腸カメラ検査は確かに大変です。事前の準備で下剤を飲むのがつらい、という声をよく聞きます。
ただ便潜血を放置して大腸がん進行、腸閉塞に至った症例を何度も見たことがあります。もちろんそういった方が全体のごく一部ということは理解していますが、私はしかるべき年齢になって検査に引っかかるなら必ず検査を受けようと思います。
ここは想像になりますが、ほかの検査項目は追加採血や超音波検査を受ける一方で、便潜血は一度陽性になるとそれなりに負担を伴う大腸カメラ検査を受けるというところが、後回しにしてしまう理由ではないかと思います。仕事が忙しくて時間が取れない、検査辛そうだから様子を見たい、と思ってしまいがちですが、今一度こちらの記事を思い出していただければと思います。
次回は、検診の話から少し離れます。そもそもがんになりにくくするために何ができるのか、「5つの健康習慣+1」のお話です。
これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

