「健診で不整脈って言われたんですが、大丈夫ですか?」
外来でよくある質問です。でも「不整脈」と言われてもピンとこないですよね。不整脈と一言で言ってもたくさんの種類があります。その中でも患者さんの数が最も多く、かつ治療が必要になることが多いのが「心房細動(しんぼうさいどう)」です。日本では約100万人以上がこの心房細動を持っていると推定されています*1。
テレビCMで某筋肉の人が宣伝していますが、今回はこの心房細動について「何が起きているのか」「なぜ治療が必要なのか」「普段の生活で気をつけること」をお話しします。
心房細動って何が起きているの?
まず、正常な心臓の動きをイメージしてみましょう。
心臓は一般的に4つの部屋があって上下左右に分かれているイメージを持ってください。上の部屋を「心房」、下の部屋を「心室」、それぞれに左右があって計4部屋です。

正常な心臓では右上の右心房にリズムを刻む指揮者がいて、そこからの電気信号に合わせて心臓全体が規則正しくリズムを刻んでいます。指揮者がタクトを振るように、一定のテンポで「トン・トン・トン・トン」と動いています。
心房細動ではこの指揮者が突然おかしくなります。心房(心臓の上の部屋)のあちこちから電気信号が無秩序に出てしまい、心房が「ブルブルブル」と細かく震える状態になります(*1)。
その結果心臓全体のリズムが乱れて、脈が「トン…トトトン…トン…トトン」のように不規則になります。これが心房細動です。
心房細動の3つのタイプ
心房細動には大きく分けて3つのタイプがあります。
- 発作性心房細動:時々起こって、7日以内に自然に止まるタイプ
- 持続性心房細動:自然には止まらず、7日以上続くタイプ
- 永続性心房細動:常に心房細動の状態が続いているタイプ
最初は「たまに起きる」状態から始まって、年月とともに「常にある」状態に進行していくことが多いです。
なぜ心房細動は治療が必要なの?
「脈が不規則なだけでしょ?」と思うかもしれません。実際、心房細動があっても自覚症状がない方もいます。でも、心房細動が怖いのは「脳梗塞」を引き起こすリスクがあるからです。
心房細動と脳梗塞の関係

心臓が「ブルブル」と震えていると、心臓の中で血液がよどみます。流れのない場所に水たまりができるようなイメージです。
よどんだ血液は固まりやすくなります。こうしてできた血の塊(血栓)がある日突然心臓から飛び出して脳の血管に詰まると——それが脳梗塞です。
心房細動がある方はない方に比べて脳梗塞のリスクが約5倍になると報告されています*1。そして、心房細動による脳梗塞は比較的大きな血栓が飛ぶため、重症化しやすいという特徴があります。
だからこそ、心房細動の治療では脳梗塞の予防が最も重要なテーマになるのです。
心房細動の治療——3本の柱
心房細動の治療は、大きく分けて3つの柱からなります。
柱①:脳梗塞を防ぐ(抗凝固療法)
心房細動の治療で最も大切なのは血を固まりにくくする薬(抗凝固薬)を飲んで、血栓ができるのを防ぐことです。
現在多くのケースでよく使われるのが DOAC(ドアック)と呼ばれる比較的新しいタイプの抗凝固薬です。以前までよく使われていたワルファリンに比べて、食事の制限が少なく定期的な血液検査の頻度も減らせる利点があります。ただし、病態によってはワルファリンが推奨される場合もあります。
ただし、すべての心房細動の方に抗凝固薬が必要なわけではありません。脳梗塞のリスクは人によって異なるため、医師は「年齢」「高血圧の有無」「糖尿病の有無」「過去に脳梗塞を起こしたことがあるか」などをスコアで評価し、抗凝固薬が必要かどうかを判断します。
抗凝固薬を飲んでいる方へ——大切な注意点
抗凝固薬は血液を固まりにくくする薬なので、出血しやすくなるという側面があります。
- 歯を抜くとき、手術を受けるとき、内視鏡検査を受けるときは、必ず「抗凝固薬を飲んでいます」と伝えてください
- ケガで出血が止まりにくいと感じたら、早めに受診しましょう
- お薬手帳に「抗凝固薬服用中」と目立つように書いておくと、緊急時に役立ちます
自己判断で薬を中止するのは非常に危険です。「出血が心配だから」と勝手にやめると、その間に血栓ができてしまうことがあります。心配なことがあれば必ず主治医に相談してください。
柱②:脈拍を調節する、心房細動を止める
心房細動自体へのアプローチとして、2つの戦略があります。
1つ目は「脈拍を抑える」戦略。心房細動は残しつつ、速くなった脈を薬で落ち着かせる方法です。
2つ目は「心房細動そのものを止める」戦略。薬やカテーテルアブレーションという治療で、正常なリズムに戻すことを目指します。
どちらを選ぶかはケースバイケースですので主治医と相談していきましょう。
柱③:生活習慣の管理
実は心房細動の治療で最近特に重視されているのが生活習慣の管理です。
心房細動を悪化させる要因として、以下のことがわかっています:
- 肥満:体重を5〜10%減らすだけで、心房細動の発作が減ることが報告されています
- 飲酒:お酒は心房細動の直接的な引き金になることがあります
- 睡眠時無呼吸症候群:治療することで心房細動のコントロールが改善します
- 高血圧:血圧管理は心房細動の管理にも直結します
「薬を飲めばいい」だけではなく、これらの生活習慣を整えることが治療の土台になっています。
心房細動に気づくには?
心房細動の症状は人によってさまざまです。
- 動悸(心臓がドキドキする、バクバクする)
- 息切れ(階段で息が上がりやすくなった)
- 疲れやすさ
- めまい
ただし全く症状を感じない方もいます。健診の心電図で偶然見つかることも少なくありません。日常生活で検診以外で不整脈に気付く方法をお伝えします。
- 検脈:左手首の脈をドクドク触れる部分に手を当てて15秒ほど脈を感じる方法。
- 血圧計:腕を締め付けるタイプの血圧計では脈拍を測定してくれるので不規則な脈を検知する方法。
- スマートウォッチ:脈拍検知した際に不規則な脈を検知する方法。

※注意:「これらの方法で異常を感じた・検知した=心房細動」ではありません。不整脈の検出は心電図で確認することが絶対です。これらの方法で検出するには精度の問題がついて回ります。また、不整脈はたくさんの種類があるので別のタイプのものかもしれませんし、機械の測定エラーかもしれません。あくまでも心房細動に気付くきっかけの一つととらえてください。心配なことがあればきちんと医療機関で相談しましょう。
こんなときは早めに受診を
- 脈が不規則な状態が続く(1時間以上ドキドキが止まらない)
- 息切れやめまいを伴う動悸がある
- 安静にしているのに心臓がバクバクする
まとめ
- 心房細動は心臓の上の部屋(心房)が無秩序に震える不整脈で、約100万人以上がかかっている
- 最大のリスクは脳梗塞。心房細動がない人と比べてリスクは約5倍
- 治療の柱は「抗凝固薬で脳梗塞を防ぐ」「脈拍調整or心房細動停止」「生活習慣の管理」の3つ
- 抗凝固薬を飲んでいる方は、自己判断で中止しない。処置や手術の前には必ず申告する
- 肥満、飲酒、睡眠時無呼吸の管理が心房細動のコントロールに直結する
- 症状がなくても心房細動が見つかることがある。健診の心電図は大切にしたい
参考文献・引用元
本記事は以下の資料を参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。
*1 心房細動の疫学・病態・治療について:日本循環器学会/日本不整脈心電学会「2024年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版 不整脈治療」[こちら]
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます。
心房細動は中高年の方で比較的頻度の高い不整脈の一つです。指摘されても自覚症状がないことが多いです。
心房細動が怖いのは「今困ること」ではなく「将来起こりうること(脳梗塞)」です。血圧や糖尿病と一緒で、脳梗塞は一度起こると取り返しがつきません。だからこそ症状がなくても治療を続ける意味があるのです。
「なんで症状もないのに毎日薬を飲まなきゃいけないの?」——もしそう思ったことがあるなら、この記事がその疑問への1つの答えになれば幸いです。
これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

