おそらく薬局で市販薬を買ったことがない人はいないと思います。
では、「OTC医薬品とは何か」という問いに答えられる人はどのくらいいるでしょうか。
薬局で手に入る頭痛や風邪、胃の不調など、それらのほとんどがOTC医薬品です。ただ種類も多く、どんなルールで売られているのか、どう選べばいいのか、意外と知らない方も多いのではないでしょうか。この記事ではOTC医薬品の基本から、選び方、注意点までを一通りお話しします。
OTC医薬品ってそもそも何?
OTCは「Over The Counter(オーバー・ザ・カウンター)」の略で、直訳すると「カウンター越しに買える薬」という意味です。日本では一般に市販薬や大衆薬と呼ばれています。
簡単にいうと処方箋がなくてもドラッグストアや薬局で自分で買える薬のことです。
医療用医薬品(病院で処方される薬)との違いを整理すると、こうなります。
- 医療用医薬品:医師の診察と処方箋が必要。健康保険が使える。
- OTC医薬品:処方箋なしで自分で買える。原則として健康保険は使えない(自費)。
OTC医薬品は、軽い症状を自分でケアする「セルフメディケーション」の入り口でもあります。
OTC医薬品は4つに分類されている
「ドラッグストアの薬」とひと口に言っても、実は法律(医薬品医療機器等法)で4つのグループに分けられています。リスクの高さによって、買うときの説明やルールが変わってきます。
① 要指導医薬品
新しくOTCになったばかりの薬などが含まれ、安全性の評価がまだ十分に確立していないものです。原則3年程度の調査期間を経て、安全性が確認されると第1類などへ移行していきます。薬剤師による対面での説明が義務付けられており、ネット販売はできません。
最近では緊急避妊薬(ノルレボ)、胃薬のPPI(タケプロンs・パリエットS など)、肥満治療薬(アライ)など、これまで処方箋が必要だった薬がここに追加されています(2026年5月参照)。
② 第1類医薬品
副作用や他の薬との飲み合わせなどに特に注意が必要な薬です。薬剤師による情報提供が必須で、薬剤師がいる時間帯・店舗でしか購入できません。胃酸を強く抑える薬の一部や発毛剤などが含まれます。
③ 第2類医薬品
風邪薬、解熱鎮痛薬、胃腸薬など、ドラッグストアでよく見かける薬の多くがここに入ります。薬剤師または登録販売者が販売し、情報提供は「努力義務」とされています。特にリスクが高めのものは「指定第2類医薬品」とされ、購入時に注意喚起がなされます。
④ 第3類医薬品
ビタミン剤や整腸剤など、比較的リスクが低い薬です。情報提供の義務はありませんが、何か気になることがあれば気軽に薬剤師や登録販売者に相談できます。
分類によって「置かれる場所」も違う
実は、これらの分類はリスクに応じてドラッグストアの中で陳列される場所まで法律で決まっています。
| 分類 | 陳列場所のイメージ | ネット販売 |
|---|---|---|
| 要指導医薬品 | カウンター内・鍵付きケース(直接手に取れない) | 不可 |
| 第1類医薬品 | カウンター近く・保護ケース内(直接手に取れない) | 可(薬剤師の情報提供必須) |
| 指定第2類医薬品 | カウンターから7m以内の棚 | 可(注意喚起あり) |
| 第2類医薬品 | 通常の棚 | 可 |
| 第3類医薬品 | 通常の棚 | 可 |
「カウンター近くにあって、店員さんに頼まないと取れない」のがリスクの高い薬、「自由に手に取れる棚」にあるのが比較的リスクの低い薬、というふうに見ていくと分かりやすいです。指定第2類の「7mルール」は、薬剤師・登録販売者が声をかけられる距離として定められたものです。
ドラッグストアで「あの薬はなぜカウンターの中にあるんだろう」と思ったら、それは今ちょうど安全性を見守られている段階の薬かもしれません。
コラム:2026年2月から、緊急避妊薬が薬局で買えるように
これまで処方箋が必要だった緊急避妊薬(アフターピル)「ノルレボ」が、2026年2月から要指導医薬品として全国5,000を超える薬局で販売されています(後発のレソエル72も2026年3月発売)。
ただし「気軽にレジで買える」というわけではなく、薬剤師との対面での面談を経て、その場で水とともに服用する運用です。価格は1回7,480円で、健康保険は適用されません。
緊急避妊薬は、性交後72時間以内の服用が必要なため、夜間や休日、地方在住の方など「医療機関にすぐかかれない人」にとってアクセスが大きく改善されました。一方で現状ではネット販売は不可、販売できる薬局も限定されていて、海外(米国・英国など)のように「ドラッグストアの棚に普通に並んでいる」状態にはまだ距離があります。
どんな種類のOTC医薬品があるの?
代表的なジャンルをまとめてみます。
- かぜ薬・解熱鎮痛薬:発熱、頭痛、のどの痛み、関節痛などに。
- 胃腸薬:胃もたれ、胸やけ、下痢、便秘などに。
- アレルギー薬:花粉症やじんましん、鼻炎などに。
- 目薬:目の疲れ、かゆみ、アレルギー性結膜炎などに。
- 皮膚の薬:かゆみ止め、虫さされ、湿疹、軽い切り傷など。
- 湿布・鎮痛消炎薬:肩こり、腰痛、打ち身などに。
- 禁煙補助薬・発毛剤:ニコチンガム・パッチ、ミノキシジル外用薬など。
上手な選び方——薬剤師・登録販売者を「使いこなす」
薬の棚の前で1人で悩むより、薬剤師や登録販売者に相談するのがいちばんの近道です。次のような情報を伝えると、より自分に合った薬を提案してもらえます。
- どんな症状が、いつから、どれくらい続いているか
- 過去に薬で湿疹やかゆみが出たことがあるか(アレルギー歴)
- 病院でもらっている薬・サプリメント(お薬手帳を見せるのが確実)
- 持病(高血圧、糖尿病、緑内障、前立腺肥大など)
- 妊娠中・授乳中ではないか
- 子どもや高齢の方が飲むのか
特に持病がある方や、複数の薬を飲んでいる方は、相互作用や成分の重複が起こりやすくなります。「いつも病院でもらっている薬と同じ成分」が市販薬に入っていることは珍しくありません。
OTC医薬品を使うときの注意点
便利なOTC医薬品ですが、いくつか押さえておきたいポイントがあります。これらはあくまでも一例です。
① 「効かないから増やす」「ずっと飲み続ける」はNG
決められた量や回数を超えて飲んでも、効果が増えるわけではなく副作用のリスクだけが上がります。市販薬は基本的に「短期間の使用」を前提に作られています。
② 飲み合わせ・成分の重複に注意
たとえば、複数の風邪薬や鎮痛薬を同時に飲むと、解熱鎮痛成分(アセトアミノフェンなど)が重複し、肝臓への負担が増えることがあります。「症状ごとに別の薬」と思っていても、成分は同じということが起こり得ます。
病気と薬の関係性はとても複雑ですので、ご自身で悩まれる場合は必ず薬剤師・登録販売者に相談をしてください。
コラム:2026年5月から風邪薬・咳止めの販売ルールが変わりました
少し前から、若い世代を中心に市販薬のオーバードーズ(過量服用、OD)が社会問題になっているのをご存じでしょうか。風邪薬や咳止めを大量に飲み、健康被害や依存につながるケースが報告されています。
この問題を受けて、2026年5月1日から薬機法の販売ルールが大きく見直されました。これまで「濫用等のおそれのある医薬品」と呼ばれていたものは、「指定濫用防止医薬品」として整理し直されています。
対象になる主な成分:風邪薬・咳止め・鼻炎薬・鎮静薬などによく入っている、次の成分が対象です。
- エフェドリン、メチルエフェドリン、プソイドエフェドリン
- コデイン、ジヒドロコデイン
- デキストロメトルファン
- ジフェンヒドラミン
- ブロモバレリル尿素
パッケージや陳列棚に「指定濫用防止医薬品」の表示がついているものが該当します。
主な変更点は次の通りです。
- 購入時の確認・説明が義務化:薬剤師や登録販売者からほかの店舗や他の指定濫用防止医薬品の購入状況、使い方や過量服用のリスクについて確認・説明を受けます。
- 原則1人1箱まで:通常は小容量品(おおむね5〜7日分)の販売が基本で、大容量品の販売には特に注意が必要とされます。
- 18歳未満への販売は厳格化:身分証で氏名・年齢を確認した上で、小容量1箱のみの販売に制限されます。
- 対面販売が原則:大容量品などはネットでの購入ができない場合があります。
「いつものように複数まとめて買おうとしたら断られた」「年齢を聞かれた」というケースが出てきますが、これは新しいルールに沿った対応です。お互い気持ちよく購入できるよう、身分証やお薬手帳を持参するとスムーズです。
念のため強調しておくと、これは「市販薬が悪い」という話ではありません。用量・用法を守って使う分には、これまで通り頼れる薬です。ルールの変更は、あくまで安全に使うための環境整備、と理解していただければと思います。
お得な税制度を知っておこう
意外と知られていないのですが、OTC医薬品を買ったお金は確定申告で一部が戻ってくる可能性があります。利用できる制度は2つあり、どちらか一方を選んで申告します(併用はできません)。
① 通常の医療費控除
家族全員分の年間医療費が10万円(または所得の5%のいずれか低い方)を超えた場合、超えた分が所得控除される制度です。
ここでポイントになるのは、「治療目的」のOTC医薬品も医療費に含めてカウントできるということ。
- 対象になるもの:風邪薬・解熱鎮痛薬・胃腸薬・湿布・目薬(治療目的)・皮膚の薬 など
- 対象にならないもの:ビタミン剤・サプリメント・栄養ドリンク・健康食品・美容目的のもの(=予防/健康増進目的)
OTCだけで10万円に届かなくても、家族の通院費・処方薬代と合算できるので、自分や家族の医療費を一年通してメモしておくと意外と届いていた、ということがあります。
② セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)
一人暮らしの成人だと「市販薬で年10万円のハードルは高い」というのが実際の声だと思います。そういった方への配慮もされています。
- 年間12,000円を超えて対象のOTCを買えば、超えた分が所得控除(最大88,000円まで)
- 対象は「特定一般用医薬品」マークがついた製品(パッケージやレシートに表示)
- 健康診断・予防接種・がん検診などのいずれかを受けていることが条件
花粉症の薬や鎮痛薬を継続的に買う方なら、月1,000円ペースでもクリアできるので、こちらの方が現実的なケースが多いです。詳しい条件やマークは国税庁のサイトで確認できます。
「対象かどうか、どう見分ければいいの?」
見分け方は次の3つです。
- パッケージ:共通の識別マーク(一定のデザインのロゴ)が付いていることが多い
- レシート:対象品には「★」などの印がつき、合計額が分けて表示される
- 店頭表示:薬剤師に「対象品ですか?」と聞けばすぐ教えてくれる
おおまかな傾向としては、もともと病院で処方されていた薬が、市販薬として買えるようになったタイプ(花粉症の薬、効き目の強めな解熱鎮痛薬、胃酸を抑える胃薬、消炎鎮痛湿布の一部、禁煙補助薬など)が対象になっていることが多く、ビタミン剤・滋養強壮剤・昔ながらの総合かぜ薬・漢方系の胃腸薬などは対象外になりがちです。
申告するときの注意点
- どちらの制度も確定申告が必要です(会社員でも年末調整では処理されません)
- 領収書・レシートは捨てずに保管を。ドラッグストアのレシートは感熱紙で消えやすいので、写真やスキャンで残しておくと安心です。
- どちらが得かは購入額や医療費の合計で変わるので、迷ったらシミュレーションサイト(こちら)を使ってみてください
「年間でいくら使ったか分からない」という方は、まずは1年間レシートを集めてみるところから始めてみましょう。
参考文献・引用元
本記事は以下の情報を参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。
【参考サイト】
- 厚生労働省『「要指導・一般用医薬品」ホームページ』
- 厚生労働省『2026年5月1日施行の医薬品販売制度の改正内容』
- 厚生労働省『セルフメディケーション税制について』
- 国税庁『No.1129 特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(医療費控除の特例)』
- 日本一般用医薬品連合会『セルフメディケーション節税シミュレーション』
- 日本OTC医薬品協会『OTC医薬品の正しい使い方』
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます。
海外ではOTC医薬品は日本以上に普及していて、海外の薬局には普通に抗菌薬も売っています。これは医療へのアクセスや保険の問題もあるので一概にどちらがいいという話ではありません。
「ちょっと風邪っぽいかも」「頭が痛いだけだから病院に行くほどでもないかな」ーそんなときに、近所のドラッグストアでサッと買える市販薬は本当に便利です。一方で便利だからこそ「何となく選ぶ」「とりあえず多めに飲む」といった使い方になりがちなのも事実です。
OTC医薬品は自分の体と上手に付き合うためのひとつの道具で、季節性の鼻炎や頭痛持ちの方にはなくてはならないものと思っています。税金の話なんかは私も今回勉強して初めて知りましたので、もっと多くの人に知ってもらえればと思います。
これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

