腎臓が悪い人の食事療法と聞くと「あれもダメ、これもダメ」というイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし現在のガイドラインが強調しているのは、「やみくもに制限するのではない」です。腎臓病が増えた理由の中に高齢化がありましたが、高齢者によくみられる、過度な食事制限がやせや栄養失調を招き、かえって健康を損なうリスクがあることが警告されています。
「管理栄養士」という心強い味方
腎臓病の食事療法は正直、少し複雑です。塩分、たんぱく質、カリウム、リン…制限すべきものが多く、何を食べていいのか分からなくなることもあるかもしれません。
だからこそ、管理栄養士による食事指導を受けることを強くおすすめします。管理栄養士の関与が腎臓病の進行抑制に有効と言われています。主治医に「管理栄養士の食事指導を受けたい」と相談してみてください。
以下、それぞれのポイントを解説します。
塩分:1日6g未満が目標
すべてのステージに共通して、最も重要とされるのが減塩です。数値は高血圧の時と同じですね(こちら)。日本人の平均食塩摂取量は約10gと言われており、これを6g未満にするのは簡単ではありません。しかし減塩は、血圧を下げ、尿たんぱくを減らし、降圧薬の効果を高めてくれる最も基本的な治療です。
ただし「味気ない食事に我慢する」のではなく、代用する工夫がポイントです。レモンやすだちの酸味、カレー粉やハーブの香り、昆布やかつお節の旨味を使えば、塩分を減らしても満足感のある食事になります。味噌汁は具だくさんにして汁の量を減らす、ラーメンの汁を残す ―― こうした小さな工夫だけで、1日の塩分を2〜3gカットできます。
たんぱく質:全体のバランスを意識
たんぱく質の制限はステージによって異なります。初期は過剰摂取を避ける程度で十分で、中期以降では標準体重を目安に制限されます。たんぱく質を摂ると体の中で老廃物(尿素窒素など)が生まれ、腎臓がそれを処理しなくてはなりません。すでに処理能力が落ちている腎臓に過剰なたんぱく質を送ると、残っている糸球体に負担がかかります。
ここで腎臓のために食事制限をしていくと、全体の食事量が減ってしまい体がエネルギー不足になり、特に高齢者では厳格すぎる制限がやせや栄養失調を招く可能性があります。たんぱく質を制限する場合は特に、春雨やくずきりなどの糖質食品や、オリーブオイル・MCTオイルなどの良質な脂質を料理にプラスして、カロリーをしっかり確保するようにしてください(ただし肥満があればカロリーを控える必要がある場合もあります)。
カリウム:野菜ジュースの落とし穴
「健康のために野菜ジュースを毎日飲んでいます」、慢性腎臓病の方は注意が必要です。
カリウムは野菜や果物に多く含まれるミネラルで、初期ではそこまで制限する必要はありません。しかし中期以降では、腎臓がカリウムをうまく排泄できなくなり、血中カリウムが上昇すると致死的な不整脈を引き起こす危険があります。ガイドラインではカリウムを4.0~5.5mEq/Lに管理することが推奨されています。
カリウムは水に溶ける性質があるため、野菜を細かく切って水にさらす、たっぷりの湯で茹でこぼすことで30〜50%減らせます。バナナやメロンなどの果物、100%野菜ジュースはカリウムが非常に多いため、食べる量と頻度に注意が必要です。
ただし、ステージが初期段階であれば、通常はカリウム制限は必要ありません。高血圧の記事でも触れましたが、むしろ野菜や果物に含まれるカリウムは血圧を下げる効果も有益とされています。ステージや血液検査の結果に応じて、主治医と相談しながら判断してください。
リン:見えにくいけど大事な管理
慢性腎臓病が進行すると、リンの排泄が追いつかなくなり、高リン血症になります。高リン血症は血管の石灰化(血管が硬くなる)や骨がもろくなる原因になります。
リンは加工食品(ハム・ソーセージ・インスタント食品・清涼飲料水など)に食品添加物として多く含まれていることがあり、栄養成分表示に載っていないことも多いため「見えないリン」に注意が必要です。
高リン血症の場合は、食事でのリン制限に加えてリン吸着薬(食事と一緒に飲んでリンの吸収を抑える薬)が処方されることがあります。
禁煙:最も重要な生活習慣改善の一つ
タバコは腎臓にとって「百害あって一利なし」です。
喫煙は慢性腎臓病の発症リスクを高め、すでに腎臓病がある方では腎機能低下を加速させることが分かっています。また心血管疾患のリスクも大幅に上昇させるため、禁煙はCKDの進行抑制と心血管イベント予防の両方に有効です。
禁煙が難しい場合は禁煙外来の活用も検討してください。ニコチン置換療法や禁煙補助薬など、医療の力を借りることで成功率が大きく上がります。
飲酒:「適量」を超えないこと
お酒とCKDの関係は少し複雑です。
適度な飲酒(日本酒換算で1日1合程度まで)であれば、CKDの発症リスクを明らかに上げるというエビデンスは限定的です。一方で過度な飲酒は血圧を上げ、肝臓にも負担をかけ全身の健康を損ないます。
ガイドラインでは過度の飲酒を控えることが推奨されています。目安として、エタノール換算で男性は1日20〜30 mL以下(日本酒なら約1合、ビールなら中瓶1本程度)が「適量」、女性はその約半分が目安です。
すでにステージが進行している方は主治医と相談の上で飲酒量を決めてください。
コーヒー:腎臓への意外な報告
意外かもしれませんが、コーヒーについては慢性腎臓病の発症や進行を抑える可能性を示す研究がいくつか報告されています。
ガイドラインでも「習慣的なコーヒー摂取はCKD発症を抑制する可能性がある」とされています。ただし、砂糖やミルクをたっぷり入れた甘い飲み方ではこの効果は期待できません。またカフェインの過剰摂取は別の問題を引き起こすため、飲みすぎは禁物です。
普段からコーヒーを飲む習慣がある方は、無理にやめる必要はないかもしれません。
運動:動けるなら動いたほうがいい
「腎臓が悪いから安静にしたほうがいい」と思っている方はいませんか?確かにかつては「腎臓病の人は安静にすべき」と考えられていましたが、現在これは否定されており適度な運動が推奨されています。
おすすめはウォーキングなどの有酸素運動と、軽い筋力トレーニング(レジスタンス運動)の組み合わせです。いきなり激しい運動をする必要はなく、まずは日常生活の中で歩く量を増やすことから始めましょう。
ただし、心臓の病気がある方や運動で体調が悪くなる方は、必ず事前に主治医に相談してください。
睡眠:短すぎても長すぎてもリスク
睡眠と慢性腎臓病の関連についても研究が進んでいます。
睡眠時間が6時間未満または8時間超の場合、慢性腎臓病の発症やたんぱく尿のリスクが高まる可能性が指摘されています。つまりは睡眠不足も寝すぎもよくないということです。適切な睡眠時間は6〜8時間が目安です。
また、睡眠時無呼吸症候群は慢性腎臓病の発症・進行との関連が示されています。いびきが大きい方、日中に強い眠気がある方は一度検査を受けることをおすすめします。
体重管理:できることから始めましょう
肥満(BMI 25以上)は慢性腎臓病の発症リスクを高めるだけでなく、すでにあるCKDを悪化させる要因にもなります。体重管理の基本は適切なカロリー摂取と運動です。極端なダイエットは筋肉量の低下を招くため避け、無理のないペースでの減量を目指しましょう。
口腔ケア:歯周病と腎臓の関係
歯周病と慢性腎臓病の関連を示す研究が増えています。
歯周病による慢性的な炎症が全身に影響を及ぼし、腎臓にもダメージを与える可能性が指摘されています。定期的な歯科検診と毎日のブラッシングは、腎臓を守ることにもつながります。
ワクチン:感染症予防も腎臓を守る
CKDの方は免疫機能が低下しやすく、感染症にかかりやすい傾向があります。感染症(特に肺炎やインフルエンザ)をきっかけに腎機能が急激に悪化することもあります。
慢性腎不全患者さんへのインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの接種が推奨されています。B型肝炎ワクチンについても、特にステージが進んだ方や透析導入が想定される方は接種を検討すべきとされています。
毎年のインフルエンザワクチン接種、そしてまだの方は肺炎球菌ワクチンの接種を主治医に相談してみてください。
生活習慣改善のまとめ
ここまでたくさんのことをお伝えしましたが、すべてを一度に完璧にする必要はありません。これまでの記事でも伝えてきたように「できることから始めましょう」です。
また食事の細かい調整(たんぱく質やカリウムの管理)は、ステージによって大きく異なり、自分で調整するのは難しいです。こういったところに管理栄養士の強みが発揮されますので、ぜひ一度聞いてみてください。
参考文献・引用元
本記事は以下の資料を参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。
【参考ガイドライン】
- 日本腎臓学会『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023年』
- KDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcomes)『慢性腎臓病;評価と管理2024年』
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回紹介した内容は高血圧や糖尿病とも似た話になります。一部異なる部分もありますが、腎臓は血管の塊のような臓器です。高血圧も糖尿病も脂質異常症も血管が固くなる動脈硬化につながりますので、気を付ける部分がかぶるのは納得できるかと思います。
個人的に興味深いのはコーヒーです。そこまで効果があると思っておらず、調べると結構な数の研究があって調べた人の中にコーヒー好きが多かったのかなと想像してしまいます。
今回の内容はとても地味で結果が見えるものではないと思います。ただ長期(5~10年)になるとそれは検査の結果として明確に表れてきます。是非できることから始めて続けてもらえるととても嬉しいです。
これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

