かつて CKD の治療は「血圧を下げる」「食事を制限する」くらいしか手段がなく、腎機能は下がるのをただ見ているしかない ―― そんな時代が長く続きました。しかし現在は、腎機能の低下を強力に遅らせる薬が複数登場し、「透析までの時間を何年も延ばせる」ケースが珍しくなくなっています。
またそれらの薬はこれまでの生活習慣病で説明した薬ともとても関係があります。特に高血圧、糖尿病との関連性が強くこれから紹介する薬のうち半分は過去の記事で紹介したことがあります(高血圧の薬はこちら、糖尿病の薬はこちら)。
慢性腎臓病治療薬の全体像
CKDの薬物治療には大きく分けて以下のカテゴリーがあります。
- 腎臓そのものを守る薬(RA系阻害薬、SGLT2阻害薬)
- 合併症を治療する薬(貧血、骨・ミネラル異常、代謝性アシドーシスなど)
- 気をつけるべき薬(市販の痛み止め、胃薬など)
RA系阻害薬(ACE阻害薬・ARB)― 腎臓を守る「盾」
どんな薬?
RA系阻害薬とは、「レニン-アンジオテンシン系」という血圧を上げる仕組みをブロックするお薬で、血圧を下げる薬として使われます。
- ACE阻害薬:エナラプリル(レニベース)、リシノプリル(ロンゲス)など
- ARB:ロサルタン(ニューロタン)、バルサルタン(ディオバン)、テルミサルタン(ミカルディス)など
なぜ腎臓に特別な降圧薬なのか?
降圧薬は他にもたくさんありますが、慢性腎臓病でたんぱく尿がある方にはRA系阻害薬が第一選択とされています。
それはこの薬が単に血圧を下げるだけでなく、腎臓のフィルター(糸球体)にかかる圧力を直接下げてくれるからです。
進んだ慢性腎臓病でもすぐには中止しない
「腎臓が悪いのに薬を続けて大丈夫?」と不安に思う方がいるかもしれません。
進行したステージ(G4・G5)であっても、RA系阻害薬を一律に中止しないことが提案されています。進行した慢性腎臓病でもRA系阻害薬の継続は心不全・脳卒中などを予防する観点から有用である可能性が示されています。
ただし、急激な腎機能低下や高カリウム血症が見られる場合は主治医が減量や中止を検討します。自己判断での中止は必ず避けてください。
SGLT2阻害薬 ― 「腎臓を守る新しい切り札」
どんな薬?
SGLT2阻害薬はもともと2型糖尿病の治療薬として開発されました。代表的なものには以下があります。
- ダパグリフロジン(フォシーガ)
- エンパグリフロジン(ジャディアンス)
腎臓で糖を再吸収する仕組みをブロックし、余分な糖を尿と一緒に排出させる薬です。
糖尿病がなくても効く
SGLT2阻害薬が世界で注目を集めたのは、糖尿病のないCKD患者さんにも効果があることが証明されたからです。
日本のガイドラインでは、糖尿病がない慢性腎臓病患者において、たんぱく尿がある場合はSGLT2阻害薬の投与を推奨としています。
重曹(炭酸水素ナトリウム)― 体内酸の補正
慢性腎臓病が進行すると体が酸性に傾き、腎機能低下をさらに加速させます。
中期以降のステージで体が酸性に傾いていたら、アルカリ性の重曹(炭酸水素ナトリウム)を内服することがあります。
球形吸着炭(クレメジン)
腸の中で尿毒素を吸着して便と一緒に排出するお薬です。腎機能低下速度を遅延させる可能性があるため使用を考慮してよいとされています。
飲みにくさ(量が多い、便秘など)が課題ですが、QOLの観点からは比較的良好との報告もあります。
海外ガイドラインの視点 ― さらなる治療の選択肢
非ステロイド型MRA(フィネレノン)
海外では、2型糖尿病がある慢性腎臓病患者に対して、RAS阻害薬やSGLT2阻害薬に加えてフィネレノンを併用することが推奨されています。腎臓の炎症や線維化を引き起こすホルモンの働きを直接ブロックする新しいタイプの薬です。
GLP-1受容体作動薬
インスリンの分泌を助けながら食欲を抑える糖尿病の薬です。SGLT2阻害薬と同じで、心血管リスクの低減と腎機能低下の抑制が期待されています。
気をつけるべき薬 ― NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
NSAIDs(エヌセイズ)と読みます。ロキソプロフェン(ロキソニン)、イブプロフェン(イブ)、ジクロフェナク(ボルタレン)などの名前が有名で、頭痛や関節痛でよく使われる身近な痛み止めです。
NSAIDsは腎臓の血流を減少させ、腎機能低下を加速させたりする可能性があります。また、高カリウム血症やむくみの原因にもなります。
慢性腎臓病患者さんにはNSAIDsの常用を避け、使用する場合はできる限り短期間にとどめることが推奨されています。痛みがある場合はまず主治医に相談してください。
痛み止めが必要な場合の代替としてアセトアミノフェン(カロナール)が一般的に使われますが、こちらも長期使用時の安全性については十分なエビデンスがないため、用量と期間には注意が必要です。
腎機能に応じた薬の量の調整
慢性腎臓病の方にとって非常に重要なポイントが、「腎機能に応じた薬の量の調整」です。
腎臓で排泄される薬は腎機能が低下していると体内に蓄積し、効きすぎたり副作用が出やすくなったりします。抗生物質、抗ウイルス薬、痛み止め、糖尿病の薬など、多くの薬が対象になります。
お薬手帳を必ず持参し、すべての受診先で見せるようにしてください。また、市販薬を購入する際も薬剤師に「腎臓が悪い」旨を伝えることが大切です。
体調不良時の薬の扱い ― シックデイルール
発熱・下痢・嘔吐などで食事が摂れないとき(シックデイ)には、普段飲んでいる薬の一部を一時的に休薬する必要があります。脱水状態では通常飲んでいる薬でも腎障害のリスクが高まるためです。
常日頃からかかりつけや薬局で、シックデイで休薬すべき薬とそうでない薬をしっかり把握しておく必要があります。わからないときは自己判断で中止せず、速やかに医療機関を受診してください。
一人で抱え込まないで ― 心理面のケア
慢性腎臓病と診断されると「いつか透析になるのでは」という不安や、食事制限・服薬の負担から、気持ちが沈むことがあります。これは自然な反応であり、あなただけではありません。
治療は確実に進化しており、慢性腎臓病は「治す」病気ではありませんが、「上手に付き合う」ことで、生活の質を保ちながら長く過ごすことができる病気になりました。気になることがあれば、遠慮なく主治医に相談してください。 そしてもし気持ちがつらいときは、心のケアについても率直に伝えてみてください。
まとめ ― お薬との付き合い方
慢性腎臓病の薬物療法は、腎臓を直接守る薬から合併症の管理まで多岐にわたります。本来は貧血やミネラルの薬もありますが、今回は理解しやすさのために省略しています。大切なポイントをまとめます。
- RA系阻害薬とSGLT2阻害薬は、腎臓を守る二大柱。主治医から処方されている場合は、自己判断でやめないこと
- 市販の痛み止め(NSAIDs)の常用は避ける。痛みがあれば主治医に相談
- すべての薬について「腎臓への影響」を意識する。お薬手帳の活用が重要
明日からできること
1つ目は、主治医に「今の治療について」聞いてみること。 SGLT2阻害薬をはじめ、新しい治療薬が自分に使えるかどうか、主治医に確認してみてください。「こういう薬があると聞いたのですが」と切り出すだけで十分です。
2つ目は、処方された薬を正しく飲み続けること。 腎臓の薬は飲み方にコツがある薬もあります。疑問があれば薬剤師に相談し、体調不良時の対応(シックデイルール)も確認しておきましょう。
3つ目は、飲んでいる薬を把握すること。 お薬手帳を活用し、市販薬やサプリメントも含めて、どんな薬を飲んでいるかを主治医や薬剤師と共有してください。腎臓に影響する薬は意外と身近にあります。
慢性腎臓病は「5人に1人」の身近な病気です。しかし、早く見つけて適切に対処すれば、進行を大幅に遅らせることができます。定期的な健診、日々の食事と運動、そして進化した薬物療法 ―― この3つの柱を、主治医と二人三脚で支えていくことが、腎臓と心臓を守る最善の道です。
参考文献・引用元
本記事は以下の資料を参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。
【参考ガイドライン】
日本腎臓学会『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023年』
KDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcomes)『慢性腎臓病;評価と管理2024年』
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます。
紺かい紹介した薬はこれまでの高血圧、糖尿病で説明したものが出てきますね。慢性腎臓病がある方は高血圧や糖尿病を一緒に持っていることが多く、使い方としては腎臓が悪い糖尿病患者にはこの薬を選ぶという考え方で選ばれることが多いです。
ぜひ自分の薬がどういった理由で処方されているか、かかりつけの先生に聞いてみるのもいいと思います。
これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

