【医師が解説】「いつか」のために、いまできること|プレコンセプションケアの話

プレコンセプションケアの記事のアイキャッチ。土から育つ新芽の写真。 婦人科

この記事はプレコンセプションケアについての理解を深めていただくことを目的としています。ご自身で症状を判断したり、薬の服用を中止したり、量を変更したりすることは絶対におやめください。

最終的な治療方針は、必ず主治医とよく相談の上で決めてください。この記事が主治医との会話をより実りあるものにするきっかけになれば嬉しいです。

プレコンセプションケアという言葉をご存知でしょうか? 「聞いたことがない。まだ妊娠とか全然考えてないし、自分には関係ないかな。」

このテーマを話すと、若い方からはよくこんな反応が返ってきます。

でもここが大事なところなのですが、プレコンセプションケアは「いま妊娠を考えている人」だけのものではありません

「プレコンセプション(preconception)」は直訳すると「受胎・妊娠の前」。つまり妊娠を考えるより前の段階から、自分の体と健康に向き合っておこうという考え方です。そして、その中身の多くは「妊娠のため」というより、性別を問わず、いまの自分が健康でいるための習慣そのものです。

今回はそんなプレコンセプションケアについて、「なぜ今注目されているのか」「具体的に何をすればいいのか」を、男女どちらの方にも役立つ形で丁寧にお話しします。

「将来、家族を持つかどうかはまだ分からない」という方にも、自分の体を知り、守るための知識として読んでいただけたら嬉しいです。

プレコンセプションケアって、なに?

プレコンセプションケアとは将来の妊娠を視野に入れながら、男女がともに自分の健康と向き合い、生活を整えていく取り組みのことです。WHO(世界保健機関)も母子の健康を守るうえで重要な考え方として位置づけています。

ポイントは2つあります。

① 妊娠を「考えてから」では遅いことがある

赤ちゃんの体の土台は、妊娠のごく初期——多くの人がまだ妊娠に気づかない時期——につくられはじめます。だからこそ妊娠が分かってからではなく、その前から整えておくことに意味があります。

② 女性だけの話ではない

妊娠は女性の体で起こりますが、健康管理は二人の問題です。男性側の生活習慣や健康状態も、妊娠のしやすさや家族の健康に関わります。

つまりプレコンセプションケアは「妊娠の準備」であると同時に、「いまの自分の健康への投資」でもある——ここが若い世代みんなに知ってほしい理由です。

なぜ、いま注目されているの?

理由はいくつかありますが、大きいのは次の3つです。

① 妊娠・出産の年齢が上がっている

日本では晩婚化が進み妊娠・出産を考える年齢が以前より高くなっています。年齢が上がると妊娠に関わる体の状態や持病のリスクも変わってきます。だからこそ早いうちから自分の体を知っておくことの価値が増しています。

② 「知らないうちのリスク」を減らせる

風疹の抗体がない、葉酸が不足している、気づかない持病がある。こうした「知らないうちのリスク」は、前もって調べれば対処できるものがたくさんあります。

③ 男性の役割が見直されている

これまで「妊娠前の健康管理=女性のもの」というイメージがありましたが、近年は男性のプレコンセプションケアも明確に勧められるようになりました。日本において国立成育医療研究センターも男性向けのチェックシートを公開しています。

具体的に、何をすればいいの?

ここからが本題です。国立成育医療研究センターが公開している「プレコン・チェックシート」をもとに、特に大切なポイントを整理します。難しいことではなくできることから1つずつで大丈夫です。

① バランスのよい食事と「葉酸」

基本は特別な食事ではなく、バランスのよい食事です。そのうえで妊娠を考える女性に特に大切なのが葉酸になります。

葉酸は赤ちゃんの神経の発達に関わる栄養素です。妊娠のごく初期に十分足りていることが望ましいため、妊娠を計画する段階から食事に加えてサプリメントでの補充が勧められています。具体的な摂取量は医師や薬剤師に相談すると安心です。

② 適正体重をキープする

やせすぎ・太りすぎは、どちらも妊娠のしやすさや妊娠中の経過に影響することがあります。極端なダイエットではなく自分に合った適正体重を保つことが目標です。

③ 体を動かす習慣

目安は1日60分以上、歩数なら8000歩以上。できれば週に数日の運動や筋トレを加えると理想的です。これは妊娠のためというより、生涯の健康のための基本ですね。

④ たばこ・お酒・危険ドラッグ

喫煙(受動喫煙を含む)、過度の飲酒、危険ドラッグは、妊娠のしやすさにも、赤ちゃんの健康にも影響します。これは男女ともに意識したいポイントです。妊娠したらお酒は控える、という前提も覚えておいてください。

⑤ 感染症とワクチン

意外と見落とされがちなのが、感染症対策です。

  • 風疹:妊娠初期に感染すると赤ちゃんに影響が出ることがあります。妊娠中はワクチンを打てないため、妊娠前に抗体を確認し、必要ならワクチン接種を。パートナーや同居家族の接種も大切です
  • B型・C型肝炎、性感染症(梅毒・HIVなど):知らないうちに感染していることもあります。妊娠前の検査で確認しておくと安心です

梅毒については、別の記事でも詳しく取り上げています。あわせて読んでみてください。

⑥ 持病・お薬・家族の病気を知っておく

持病がある方は妊娠と薬の関係を事前に主治医と相談しておくことが大切です。「妊娠が分かってから自己判断で薬をやめる」のはかえって危険なことがあります。また、家族の病気(家族歴)を知っておくことも自分の体を理解する手がかりになります。

⑦ 歯のケア・がん検診・生活習慣病チェック

歯周病は妊娠経過に関わることが知られています。また子宮頸がんなどのがん検診、血圧・血糖などの生活習慣病チェックも、若いうちから習慣にしておきたいものです。

コラム:男性にできるプレコンセプションケア

「自分は男性だから関係ない」と思っていませんか? 実は男性にも、できることがたくさんあります。

バランスのよい食事と適正体重、運動、禁煙・節酒、よい睡眠、ストレスをためない——こうした生活習慣は、妊娠のしやすさにも関わります。さらに風疹などのワクチン接種でパートナーを守ることもできます。

プレコンセプションケアは、二人で取り組むもの。ぜひパートナーと一緒に始めてみてください。

「チェックシート」を使ってみよう

国立成育医療研究センターは、男性用・女性用それぞれのプレコン・チェックシートを無料で公開しています(こちら)。

「適正体重をキープする」「葉酸をとる」「ワクチンを確認する」といった項目が並んでいて、いまの自分にできていること・これからのことがひと目で分かるようになっています。

完璧を目指す必要はありません。できている項目を1つずつ増やしていく——その感覚で、気軽に使ってみてください。

どこに相談すればいい?

「もう少し具体的に相談したい」というときの選択肢です。

  • かかりつけの婦人科・産婦人科:女性は「かかりつけの婦人科医」をつくっておくと月経の悩みから妊娠の相談まで幅広く頼れます
  • プレコンセプションケア外来:専門の外来を設けている医療機関もあります
  • 自治体の窓口・保健所:プレコンセプションケアに取り組む自治体が増えています。お住まいの自治体名と「プレコンセプションケア」で検索してみてください
  • ブライダルチェック:結婚・妊娠を意識したタイミングで受ける健康チェックも、よいきっかけになります

まとめ

  • プレコンセプションケアは、妊娠を考える前からの健康づくり。「いまの自分の健康への投資」でもある
  • 赤ちゃんの体の土台は妊娠のごく初期につくられる——妊娠が分かる前から整えておく意味がある
  • 女性だけでなく男性も取り組むもの
  • 基本は バランスのよい食事・適正体重・運動・禁煙節酒・よい睡眠
  • 女性は特に 葉酸、男女ともに 風疹などのワクチンと感染症検査 がポイント
  • 持病・お薬・家族歴は事前に主治医と共有を
  • 国立成育医療研究センターの チェックシート が便利。できることから1つずつ

「いつか」のために、というと遠い話に聞こえるかもしれません。でもプレコンセプションケアの中身は、今日からの自分を元気にしてくれる習慣そのものです。将来 家族を持つかどうかに関わらず、ぜひ知っておいてください。


参考文献・引用元

本記事は以下の資料を参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。

【参考資料】


あとがき

最後まで読んでいただきありがとうございます。

なんと30本めの記事でした。特に何もないのですが意外とコツコツ続けるのは苦じゃないなと新しい自分を実感しているところです。すいません、話がそれました。

私は産婦人科での研修を受けたので知っていましたが、医師の中でも知らない人はいました。体感ですが、医療職でも知らない人が多いんじゃないかなと思います。

あと以前に高校生対象の健康講座の授業を引き受けたことがありますが、テーマを自由だったのでプレコンと性感染症を選んで話したことがあります。なんだったら義務教育に加えてもいいんじゃないかとまで思っています。あとはこの話を聞いて、当事者たちがどれくらい意識を持ってもらえるか、上手に伝えられているのかは常に考えていこうと思います。

これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

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