「朝、起き上がろうとしたら天井がグルグル回って、怖くて動けなくなりました」
「寝返りを打った瞬間、世界が回転しました」
外来でも救急外来でも、こうした訴えで来られる方は本当にたくさんいらっしゃいます。突然の回転性めまいは、本人にとって本当に恐ろしい体験です。「このまま倒れるんじゃないか」「何か大変な病気じゃないか」と不安になるのも当然です。
こうした「頭の向きを変えたときに起きる回転性めまい」を起こす病気のひとつに、良性発作性頭位めまい症(りょうせいほっさせいとういめまいしょう/BPPV)があります。日常診療でもよく出会う病気で、名前は難しいですが、しくみが分かるとイメージしやすい病気でもあります。
今回はこのBPPVについて、「どうしてめまいが起きるのか」「どんな治療があるのか」「再発を減らすために何ができるのか」をまとめてお話ししていきます。
BPPVの正体——耳の中の「小さな石」
「めまい」と聞くと、多くの方は「脳の病気では?」と心配されます。でもBPPVは脳ではなく耳の中(内耳)で起きる病気です。
私たちの耳の奥には音を聞くための装置と、体のバランスを感じる装置が同居しています。バランス装置の中には、「耳石(じせき)」と呼ばれるごく小さなカルシウムの粒があって、これが重力を感知することで「今、自分の頭はどっちを向いているか」を脳に伝えています。
BPPVではこの耳石が本来あるべき場所からはがれて、ごく近くにある「三半規管(さんはんきかん)」の中に迷い込んでしまうことが原因と考えられています。
三半規管は本来は「頭の回転」を感じ取るセンサーです。そこに迷子の耳石が転がり込むと、頭を動かすたびに石がコロコロ動いてセンサーを刺激し、「グルグル回っている!」という偽の信号を脳に送ってしまう——これが、あの強烈な回転感の正体です。

BPPVでよく見られる特徴
BPPVには、ある程度パターン化された症状の出方があります。
- 頭の向きを変えたときに起きる(寝返り、起き上がる、上を向く、下を向く、など)
- めまいはだいたい数十秒〜1分くらいで自然におさまる(じっとしていれば止まることが多い)
- 聞こえの悪さ(難聴)や耳鳴りは基本的に伴わない
- 強い吐き気を伴うことはあるが、意識がなくなることはない
- 同じ動作を繰り返すとだんだん軽くなることもある
「頭を動かした瞬間、数十秒だけグルグル回って、止まる」——というのが、よく聞くBPPVの典型像です。
ただし大事なのはこれに当てはまるからといって自分でBPPVと決めつけてはいけないということです。似たような症状を起こす別の病気もたくさんあり、最終的な診断は診察と検査をふまえて医師が行うものだとご理解ください。
「これはBPPVだから大丈夫」と自己判断しないでほしい話
ここは正直にお伝えしたいところです。
BPPVは頻度から言えば「頭を動かすと起きるめまい」の代表的な原因のひとつです。一方で、世の中には「BPPVにそっくりな見た目」で始まる別の病気もあります。代表的なのは、小脳や脳幹といった脳の一部に起きる脳梗塞・脳出血などです。
よく「手足のしびれ、ろれつが回らない、ものが二重に見える、激しい頭痛——こういった症状が”なければ”脳ではない」と書かれていることがあります。確かに、こうした症状を伴うめまいは脳の病気を強く疑うサインで、見つけたらすぐ救急受診が必要です。
ただ自身の経験として、BPPVと見分けにくい形で始まった脳梗塞の患者さんに出会ったことがあります。最初は「頭を動かすとめまい」「他の症状はとくになし」というように、いわゆる”安心パターン”に見えても、検査をしてみると脳に病変があった、というケースです。
ですから、この記事では「こういう症状ならBPPVだから安心」とは言いません。お伝えしたいのはシンプルに次の一点だけです。
突然の強い回転性めまいが出たら、自己判断せず、一度医療機関で診てもらってください。
「動けないほどつらい」「初めての激しいめまい」「いつもと違うめまい」——こういったときは、迷わず受診を検討してください。診察してもらった結果が「BPPVでしたね」となれば、それはそれで安心材料になります。安心は、症状を自分で見比べて得るものではなく、診察を受けて得るものだと考えていただけたらと思います。
BPPVの治療——「迷子の石を、元の場所に戻す」
BPPVの治療の中心は、薬でも手術でもありません。「石を本来の場所に戻すための、頭の動かし方」です。
耳石置換法(じせきちかんほう)のイメージ
耳石置換法とは、文字どおり「耳の石を置き換える方法」のことです。代表的な手技としてエプリー法(Epley法)などがあります。
イメージとしては、こんな感じです。
透明なホースの中にコロコロ転がる小さなビーズが1つ迷い込んでしまったとします。ホースは曲がりくねっているので、ただ振り回しただけではビーズは出てきません。でも、ホースの傾きを「決まった順番」で少しずつ変えていくと、ビーズは重力に従って少しずつ進み、最後にはホースの外(本来あった場所)に戻っていきます。
これとよく似たことを、医師が患者さんの頭と体の向きを誘導することでやっていく——それが耳石置換法のイメージです。

うまくいけば、1回の治療で症状が大きく軽くなることもあります。1回で完全に取り切れなかった場合でも、繰り返すことで多くの方が改善していきます。
ちょっと注意:自己流の動画治療には気をつけて
最近はYouTubeなどでも耳石置換法の動画を見かけます。「自分でやってみました」という方も増えていますが、BPPVは三半規管のどの部位に石が迷い込んでいるかによって、動かす方向が変わります。なので動画を見て試してみることは否定しませんが、要注意になります。
自己流で試す前に、まずは医師の診察を受けて「どのタイプのBPPVか」を確認してもらうことを強くおすすめします。
自然によくなることもある
BPPVは何もしなくても数日〜数週間で自然に軽くなることがあります。日常生活で頭を動かしているうちに、石が偶然元の位置に戻ったり、徐々に吸収されたりするためと考えられています。たいていの人はつらい時期を対症的に和らげつつ経過をみるうちに改善していくパターンが多いです。
一方で、よくなるまでの時間は個人差が大きいです。人によっては月単位もかかる方もいるので覚えておいてください。
再発を減らすために——日常でできること
BPPVは残念ながら再発しやすい病気です。報告によって幅はありますが、年間の再発率は十数〜数十%程度とされています。「治った」と思っても半年後・1年後にまた似たようなめまいで来院される方は珍しくありません。
ここでは日常生活で意識できる予防のポイントを少し詳しめにお話しします。
① ビタミンD・カルシウム不足を放置しない
耳石はカルシウムの結晶です。そのため、カルシウム代謝に関わるビタミンDの不足は、BPPVの再発リスクと関連が指摘されています。
具体的には、
- 適度な日光浴(屋外で15〜30分程度、季節や肌タイプによって調整)
- ビタミンDを含む食品(鮭・サンマ・しらすなどの魚、卵黄、きのこ類)
- カルシウムを含む食品(乳製品、小魚、緑黄色野菜、大豆製品)
を意識すると良いと考えられています。サプリメントが必要かどうかはもともとの不足の有無や持病によって変わりますので、自己判断で大量に始めるのではなく、心配な方は主治医に相談していただくのがおすすめです。
② 同じ姿勢を長時間とり続けない
長時間ずっと下を向き続けるデスクワーク、美容院でずっと上を向く、寝る向きがいつも一方に偏っている——こうした「同じ姿勢を続けること」は耳石がはがれたりいったん戻った石がまた動いてしまうきっかけになり得ます。
「1時間に1回は、首をゆっくり大きく動かして肩や首をほぐす」など、小さな習慣で十分です。
③ 「安静にしすぎない」ことも大切
「もう一度めまいが起きるのが怖いから、できるだけ頭を動かさないようにしている」——これは気持ちとしてはとてもよく分かります。けれども、頭を動かさなさすぎると、耳石がうまく流れていかず回復が遅れることもあります。
主治医の説明を踏まえつつ、無理のない範囲でふだんどおりに頭を動かしていく——その意識が結果的に回復と再発予防の両方に良い方向に働きます。
④ 再発の「初動」を覚えておく
一度BPPVになった方は、「またあの感じが来たな」と気づきやすいのが強みです。再発を疑うようなめまいが出たら、無理せず早めに耳鼻咽喉科やめまい外来に相談してください。早めに耳石置換法を受けたほうが症状が長引かずに済むことが多いです。
コラム:BPPVになりやすいのはどんな人?
BPPVは50〜60代以降の女性に多い病気として知られています。骨密度の低下(骨粗しょう症)との関連も指摘されており、カルシウム代謝が関係していると考えられています。
また、次のような方にも起きやすいと言われています。
- 長時間のデスクワークで、ずっと下を向いている
- 寝る向きがいつも同じで、片側を下にしていることが多い
- 頭をぶつけた(転倒、交通事故、スポーツ中の衝撃など)
- 入院などで長期間ベッドで安静にしていた
「自分も当てはまるかも」と感じた方は、生活習慣のなかで少しだけ意識してみていただけたらと思います。
まとめ
- BPPV(良性発作性頭位めまい症)は耳の中の小さな石(耳石)が三半規管に迷い込んでしまうことで起きるめまい
- 「頭を動かすと数十秒回って、じっとしていると止まる」がよくあるパターン
- ただし、症状だけでBPPVと自己判断するのは危険。突然の強いめまいは、まず医療機関で診てもらってほしい
- 自己流の動画治療は要注意。まずは診断をつけてもらうことが大切
- 再発しやすい病気なので、ビタミンD・カルシウム、姿勢の偏り、安静にしすぎないなどを意識して予防していく
参考文献・引用元
本記事は以下のガイドラインを参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。
【参考ガイドライン】
- 日本めまい平衡医学会『良性発作性頭位めまい症(BPPV)診療ガイドライン2023年版』
- 米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会財団(AAO-HNSF)『Clinical Practice Guideline: Benign Paroxysmal Positional Vertigo(2017改訂版)』
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます。
BPPVは外来でも救急でも本当によく出会う病気です。もちろん症状に強さは個人差がありますが、救急の場ではゲーゲー吐きながら救急車で運ばれてくることが多いです。
ご自身、あるいは身近な方が初めて強いめまいに襲われたとき、「とりあえず病院で診てもらう」——その一歩を遠慮なく踏み出していただけたらと思います。診察を受けた結果がBPPVであれば、適切な治療でずいぶん楽になりますし、もし別の病気が隠れていても早めに対処できます。どちらに転んでも、受診はあなたの味方になってくれるはずです。
これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

