「骨密度を測ったら、同年代の80%しかないって言われたんです。これってまずいんでしょうか?」
健診の結果やちょっとした骨折のきっかけで、こんな質問を受けることがあります。
数字だけ見せられても、ピンとこないですよね。「80%って、もう骨粗しょう症なの?」「治療した方がいいの?」「でも今は痛くもなんともないし……」
骨粗しょう症の患者さんは、国内で1,500万人以上と推定されています。「自覚症状がないまま進む」「骨折して初めて気づく」のがこの病気の困ったところです。
今回から骨粗しょう症のシリーズを3回に分けてお話しします。今回はその第1回、骨密度の数値の読み方、いつから治療を考えるか、ここを丁寧に整理していきます。
骨粗しょう症って、どんな病気?
「骨粗しょう症(こつそしょうしょう)」は骨の量が減って骨の質が落ち、骨折しやすくなる病気です。
骨と聞くと、カチカチに固まった石のようなものを想像するかもしれません。でも実は、私たちの骨は毎日少しずつ古い骨が壊され、新しい骨が作られている——常に建て替え工事が行われている動的な組織なんです。
この「壊す」と「作る」のバランスが年齢とともに崩れてきます。特に女性は閉経後、骨を守ってくれていた女性ホルモン(エストロゲン)が急激に減るので、壊すペースが作るペースを大きく上回る——その結果、骨はスカスカになっていきます。
自覚症状がないまま進む
骨粗しょう症のいちばん厄介な特徴は、痛くも痒くもなく進行することです。「骨が弱ってきました」と体が教えてくれる症状はほぼありません。
多くの方が「骨粗しょう症」と分かるきっかけは、
- 健診や人間ドックで骨密度を測ったとき
- ちょっと尻もちをついただけで腰の骨が折れた
- 重い物を持ったら背中が痛い → 実は背中の骨が知らないうちに潰れていた(圧迫骨折)
- 身長が若い頃より4cm以上低くなった
- 背中が丸くなってきた
こうした「結果」から逆算して見つかることがほとんど。だからこそ、症状が出る前に「測ること」が大事になるわけです。
骨折は「動けない自分」につながる
骨粗しょう症がなぜ問題なのか——それは、骨折がその後の生活を大きく変えてしまうからです。
中でも怖いのが足の付け根の骨折(大腿骨近位部骨折)になります。日本では年間およそ19万人が新たにこの骨折をしていて、高齢化とともに増え続けています。手術やリハビリで数か月入院することも多く、そのまま歩く力が戻らず、介護が必要になる方も少なくありません。
「骨折=痛いだけ」ではなく、「骨折=動けなくなる・人の手を借りる生活になりうる。」だからこそ、折れる前に手を打つ意味があります。
「一度折れると、次が折れやすい」——骨折の連鎖
もう1つ知っておいてほしいのが、一度骨折するとその後しばらくは次の骨折が起きやすくなるということ。これを医療では「骨折連鎖(こっせつれんさ)」と呼びます。特に骨折してからの1〜2年はリスクが高い、いわば”危険な時期”です。
だからもし背骨や足の付け根を骨折したら、それは「治して終わり」ではなく「次の骨折を防ぐスタート地点」になります。
骨密度はどうやって測る?——DXAが王道
骨密度の検査にはいくつか方法がありますが、骨粗しょう症ガイドラインで推奨されている標準的な方法は DXA法(デキサと読みます)です。
腰椎(背骨の下のほう)と大腿骨近位部(足の付け根)にX線を当てて、骨にどれくらいミネラル(カルシウム)が詰まっているかを測ります。被ばく量は胸部レントゲンよりずっと少なく、5〜10分で終わる検査です。
健診でよく行われる「かかとの超音波検査」もありますが、診断にはDXAが必要です。健診で「骨密度が低い」と言われたら、医療機関でDXAを受けるのが基本になります。
数字の読み方
DXAの結果には、よく分からない数字がいくつも並んでいます。ここで使われるのがYAMという指標です。
YAM(Young Adult Mean/若年成人平均値)
ヤムと読みます。若い人の平均値を「100%」として、いまのあなたの骨密度がその何%か、を示したものです。日本ではこちらがよく使われます。
診断基準
| 状態 | YAM |
|---|---|
| 正常 | 80%以上 |
| 骨量減少(骨減少症) | 70%以上80%未満 |
| 骨粗しょう症 | 70%以下 |
つまりYAM 70%以下になると骨粗しょう症と診断されることになります。「同年代の70%」ではなく「若い人の70%」と比べている、というのがポイントです。『同年代と比べて』という言われ方をすることもありますが、診断に使うのは若い人と比べたYAMです。
骨粗しょう症のリスクが高いのはどんな人?
これに当てはまる方は症状がなくても骨密度を測る価値があります。
女性
- 65歳以上の女性
- 閉経後の女性で、何らかのリスクがある方(やせ型・喫煙・家族歴など)
- 早期閉経(45歳未満で閉経した)
男性
- 70歳以上の男性
- 男性ホルモンの低下を伴う病気の治療中
コラム:骨粗しょう症は「女性の病気」ではありません
骨粗しょう症というと女性のイメージが強いですが、国内の男性患者は約400万人と推定されています。しかも、いざ骨折したときの回復(予後)は、むしろ男性のほうが悪いという報告もあります。「自分は男だから関係ない」と油断せず、当てはまるリスクがあれば一度測っておくのがおすすめです。
男女共通のリスク
- ステロイド(プレドニンなど)を3か月以上飲んでいる
- 関節リウマチがある
- 慢性腎臓病・糖尿病・甲状腺機能亢進症などがある
- 過去に骨折した(特に転んだ程度の軽い外傷で)
- 両親に大腿骨近位部骨折の経験がある
- やせ型(BMI 18.5未満)
- 喫煙・1日3単位以上の飲酒(ビールなら中瓶3本以上)
まずは「骨粗鬆症検診」を活用しましょう
日本では、健康増進法にもとづいて市区町村が骨粗鬆症検診を行っています。対象は40・45・50・55・60・65・70歳の女性(5歳刻み)になります。問診と骨量測定がセットで自治体によっては対象年齢や男性に枠を広げているところもあります。お住まいの自治体の案内をチェックしてみてください。
ただしこの公的検診は女性が中心で、男性は基本的に対象外になります。そのため男性や検診の年齢にあたらない方は以下のようなリスクや骨折歴があれば、年齢・性別を問わず自分から測定を相談することが大切になります。
POINT:検診を待たずに「測るべき」サイン
次に当てはまる方は、検診のタイミングに関係なく一度測っておくのがおすすめです。
- 軽い転倒などで骨折したことがある(脆弱性骨折=最優先)
- ステロイドを3か月以上飲んでいる/飲む予定がある
- 関節リウマチ・糖尿病・慢性腎臓病などの持病がある
- 4cm以上の身長低下・背中の丸まりがある
- 両親に大腿骨近位部骨折の既往がある/やせ型・喫煙・多量飲酒
まとめ
- 骨粗しょう症は骨の量と質が落ちて、骨折しやすくなる病気。自覚症状なく進む
- 足の付け根の骨折は年間約19万人。骨折は「動けなくなる」「介護が必要になる」につながりうる
- 一度折れると次が折れやすい(骨折連鎖)。骨折は「次を防ぐスタート地点」
- 診断の王道はDXA法。健診のかかと検査は手軽だが、診断にはDXAを
- YAM 70%未満で骨粗しょう症と診断される
- 骨密度が正常でも、背骨や足の付け根の骨折があれば骨粗しょう症
- 日本の骨粗鬆症検診は女性40〜70歳が対象(5歳刻み)。骨折歴・ステロイド・持病がある方は年齢・性別を問わず測定を
参考文献・引用元
本記事は以下のガイドラインを参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。
【参考ガイドライン】
- 日本骨粗鬆症学会・日本骨代謝学会・骨粗鬆症財団『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版』
- 英国骨粗鬆症ガイドライングループ(NOGG)『骨粗しょう症の予防と治療に関する診療ガイドライン2024年』
- 米国骨代謝学会(ASBMR)、米国骨粗鬆財団(BHOF)『骨密度治療に関する提言2024年』
- 厚生労働省『骨粗鬆症検診』
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます。
骨粗しょう症は診療していて「もっと早く治療を始められたらよかったな」と感じる病気の一つです。高血圧や糖尿病と同じに考えていただくのがいいと思います。ただ違うところは骨粗しょう症によってもたらされる結果が患者の痛み、QOLに大きな影響を与える点です。
背骨の圧迫骨折で痛みが取れず、いつのまにか身長が縮み、外に出るのが億劫になり……というドミノを止めるには、骨折が起きる前に手を打つしかありません。
骨粗しょう症は自分の数字を知ることがスタートラインです。健診で測れる機会があれば、ぜひ。「ちょっと低めですね」と言われたら、それは「将来の骨折を防ぐためのヒント」をもらった、というふうに受け止めてみてください。
これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

