肺炎は現在でも日本人の死因の第5位に位置する重大な疾患です。中でも高齢者の肺炎の主な原因菌である「肺炎球菌」に対するワクチン接種は、予防の柱として長年推奨されてきました。
2026年4月からこの肺炎球菌ワクチンの制度が大きく変わりました。従来のワクチン(ニューモバックス)から、新世代のワクチン(プレベナー20)への切り替えが行われたのです。さらに、2025年10月にはもうひとつの新しいワクチン「キャップバックス(PCV21)」も登場し、選択肢が広がっています。
肺炎球菌感染症とは
肺炎球菌は、肺炎・髄膜炎・敗血症・中耳炎などさまざまな感染症を引き起こす細菌です。特に65歳以上の高齢者や免疫力が低下した方では、重症化しやすく命にかかわることもあります。
肺炎球菌には100種類以上の「血清型」が存在し、そのすべてが同じ頻度で病気を起こすわけではありません。ワクチンは特に病原性の高い血清型をカバーするように設計されています。
ワクチンの種類 ── 何がどう違う?
現在日本で高齢者に使用される主な肺炎球菌ワクチンは以下の4種類です。
ニューモバックス(PPSV23)── 従来の「定期接種ワクチン」
23種類の血清型をカバーする「多糖体ワクチン」です。長年にわたり定期接種に用いられてきましたが、2026年3月末をもって定期接種としての使用は終了しました。
- カバー血清型: 23種類
- 接種回数: 1回(時間経過とともに抗体が低下するので再接種が求められていた)
- 特徴: 免疫記憶(ブースター効果)が得られにくい
プレベナー20(PCV20)── 2026年4月からの「定期接種ワクチン」
20種類の血清型をカバーする「結合型ワクチン」です。結合型ワクチンは免疫記憶が得られるため、価数が少なくても質的に優れた免疫応答が期待でき、より強い免疫反応と免疫記憶が得られます。
- カバー血清型: 20種類
- 接種回数: 1回で完結
- 特徴: 免疫記憶が生じるため、再接種が不要
キャップバックス(PCV21)── 2025年10月発売の最新ワクチン
21種類の血清型をカバーする結合型ワクチンで、現時点では任意接種です。PCV20には含まれない血清型もカバーしており、国内データではより高いカバー率を示しています。
- カバー血清型: 21種類
- 接種回数: 1回で完結
- 特徴: PCV20より高いカバー率。今後の定期接種への組み込みが検討される。
バクニュバンス(PCV15)
15種類の血清型をカバーする結合型ワクチンです。2022年9月に国内で成人への使用が承認されました。もともと使われていたプレベナー(PCV13)からのステップアップとして登場しましたが、他のワクチンの台頭もあり現在は使われる頻度は高くないです。
- カバー血清型: 15種類(PCV13の13種類+2種類)
- 接種回数: 1回(ただし、より広いカバーを得るために接種後1〜4年以内にPPSV23を追加接種する「連続接種」が推奨されていた)
- 特徴: PCV13と共通の血清型では同等の免疫原性が確認され、追加の22F・33Fでは優越性が示された
PCV15はアメリカでは現在も連続接種が選択肢として残されていますが、手順の煩雑さからPCV20またはPCV21の単独接種が主流になりつつあります。

2026年4月からの定期接種 ── 何が変わった?
対象者
- 65歳の方
- 60〜64歳で重度の基礎疾患がある方(心臓・腎臓・呼吸器の障害、HIVによる免疫障害がある方)
主な変更点
- ワクチンがプレベナー20(PCV20)に変更 ── 従来のニューモバックス(PPSV23)から切り替わりました
- 1回接種で完結 ── 以前は定期的な再接種が推奨されていましたが、新しいワクチンは原則1回で済みます
- 定期接種で使えるのはプレベナー(PCV20)のみ ── キャップバックス(PCV21)や従来のニューモバックスは現時点では定期接種には含まれておらず、公費負担の対象外となります(ただし市町村によりますのでぜひお住まいの市町村に問い合わせてみて下さい。)
基本的な考え方(2025年9月時点)
- 成人にはプレベナー(PCV20)またはキャップバックス(PCV21)の単独接種が基本
- ニューモバックス(PPSV23)接種後の同ワクチン再接種は「原則として選択肢としない」
接種の考え方
これから初めて接種する方: プレベナー20(PCV20)が選択肢となります。またはキャップバックス(PCV21)も推奨されますが現在は定期接種(公費助成)の対象外となります。どちらを選ぶかは、かかりつけ医と相談してください。
過去にニューモバックス(PPSV23)を接種済みの方: 前回接種から1年以上経過していれば、プレベナー20(PCV20)またはバクニュバンス(PCV21)を追加接種できます。ただし、定期接種(公費助成)は生涯1回のみになりますので、自費での接種となります。
アメリカとの比較
アメリカでは2024年10月に肺炎球菌ワクチンの接種推奨年齢を従来の65歳以上から50歳以上に拡大しました。使用するワクチンはPCV20またはPCV21で、自身で選択可能です。
よくある質問
Q. プレベナー(PCV20)とキャップバックス(PCV21)、どちらを選ぶべきですか?
国内データではキャップバックス(PCV21)の方がカバー率が高いとされていますが、プレベナー(PCV20)は定期接種(公費助成あり)で受けられるメリットがあります。費用面と効果のバランスを考え、かかりつけ医と相談して決めましょう。
Q. 以前に肺炎にかかったことがあっても接種できますか?
接種可能です。
そもそも肺炎にも種類がたくさんあって、肺炎球菌以外の肺炎の可能性もあります。また仮に肺炎球菌による肺炎を起こしていても、肺炎球菌にも種類がたくさんあるので他の種類の肺炎球菌を予防できます。
Q. 他のワクチンと同時に打てますか?
インフルエンザワクチンや新型コロナワクチン等の不活化ワクチンと同時接種が可能です。ワクチンの種類によっては同時接種できないことがあります。また接種部位は分けて行います。
Q. 接種後の副反応はどのようなものがありますか?
ワクチン(PCV20・PCV21)の副反応としては、注射部位の痛みや腫れ、筋肉痛、倦怠感、頭痛などが報告されています。多くは軽度で数日以内に改善します。
予防接種救済制度
予防接種は感染症を予防するために重要なものですが、健康被害(病気になったり傷害が残ったり)が起こることがあります。極めて稀ではあるものの、副反応による健康被害をなくすことはできないから、救済制度が設けられています。
制度を申し込むときは、予防接種を受けた時に住民票を登録していた市町村に相談ください(こちら)。
参考資料
本記事は以下の資料を参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。
【参考ガイドライン・サイト】
- 日本感染症学会ほか『65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方 第7版』
- 厚生労働省『高齢者の肺炎球菌ワクチン』
- アメリカ疾病予防管理センター『Recommendations: Pneumococcal Vaccine』
- 世界保健機関『WHO position papers on Pneumococcus』
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます。
肺炎球菌肺炎はぜひ予防してください。肺炎球菌による肺炎は人によって程度がバラバラで、私は医師1年目に重症な肺炎球菌肺炎を経験しました。正直肺炎なんてひどくても入院して点滴すればよくなるだろうと思っていましたが、その方は人工呼吸まで必要な状態で半年近く入院していたのを覚えています。
改めて世界中でワクチン開発、定期接種が必要な理由をしみじみ感じました。確かに小児期のワクチン接種やコロナ禍も相まって重症な肺炎球菌肺炎は減っているのは事実ですが、ゼロではないのも事実です。私の経験談ですが予防の大事さを学んだ症例でした。
これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

