「様子を見ましょう」の真実

医療用語を翻訳しているところ つぶやき

「様子を見ましょう」——病院やクリニックを受診して、この言葉で診察が終わった経験はありませんか。「放っておいていいの?」「もっとちゃんと診てほしい」、そう感じるのは当然だと思います。

でも医師の側からすると、「様子を見ましょう」にはかなり幅広い意味が隠れています。今回はこの言葉の裏側にある医師の考えを「翻訳」してみます。

「様子を見ましょう」に隠された意味

パターン1:今は治療するより、体の回復力に任せた方がいい

一般的な風邪がわかりやすい例です。風邪の原因のほとんどはウイルスですが、ウイルスに効く薬は基本的にありません。体の免疫が戦って治すしかない。ここで無理に薬を出しても意味がないどころか、副作用のリスクだけが増えます。

このときの「様子を見ましょう」は、「今のあなたの体は自分で治す力がある。余計な介入はしない方がいい」という判断です。何もしないのではなく、あえて何もしないことを選んでいる。ここが伝わりにくいところだと思っています。

パターン2:時間が経たないと診断がつけられない

症状が出始めたばかりの段階では、複数の病気の可能性が考えられてまだ絞り込めないことがあります。

たとえるなら、小説の1ページ目だけ読んで「この物語の結末はこうです」と断言するようなものです。実際は小説と思っていたが1枚のコラムの時もあります(喉が痛くて扁桃炎など)。ただ中には1000ページ超えの大長作シリーズものの小説のこともあります。症状の経過を見ることは、物語を途中まで読み進めることに似ています。

このときの「様子を見ましょう」は「今すぐ答えを出すより、もう少し情報が揃ってから判断した方が正確な診断ができる」という意味です。

パターン3:検査の結果は問題ないが、症状が続くか見たい

血液検査や画像検査をしたけれど、明らかな異常が見つからなかった。でも患者さんには症状がある。この状況は実はよくあり医師側も対応に困ります。

検査は万能ではなく、拾える異常と拾えない異常があります。「異常なし=健康」とは限りません。ただ、この段階で精密検査を次々やるのが正解かというと、必ずしもそうではありません。

このときの「様子を見ましょう」は、「今の時点では大きな問題はなさそうだけど、症状が続くなら次の一手を考えましょう」という意味です。

パターン4:正直、外来の時間が足りない

身も蓋もない話ですが、これも現実です。一般外来の午前枠に20人以上の患者さんがいて、一人あたりの時間はどうしても限られます。本当はもっと丁寧に説明したくても、「様子を見ましょう」で次に進まざるを得ない場面があります。

医療制度そのものの課題でもありますが、自分自身への反省も込めて書いています。ブログという場で、外来では伝えきれないことを補完したいと思った理由のひとつでもあります。

「様子を見ましょう」正直言いたくはないがそうもいかないのです

現場ではパターン2、3がどうしても多く、私たちもとても悩みます。もちろん患者さんと一緒に方針を決めていくことになりますが、どうしても方向性は示してあげないと患者さんも困ります。ここが医療の難しいところであり、AIだけだは完結できない部分でもあると思っています。ではもう少しデータも含めて解説していこうと思います。

医療には「どうしてもわからない部分」がつきもので、専門的には『不確実性』と呼びます。医学の知識は膨大すぎて把握しきれない、医学そのものにも限界があるという本質的な問題があり、この分野は70年以上昔から研究され続けてきたテーマでもあります。

健康上の問題で受診した患者の約36 %が初診時に具体的な診断名がつきませんでした*1。また新しい症状で受診した場合、最終的に病気が原因と判明するのは約16 %に過ぎないという報告もあります*2。つまり「1回の受診で答えが出る方がむしろ例外」なのです。(参考にした文献は海外の内科外来の研究である点を補足しておきます。)

ここで私たちは「重症度と緊急度」の二つの物差しで考えます。

  • 重症度:どれくらい悪い状態か
  • 緊急度:今すぐ動かないと危険か

もう少し具体例を示して説明しようと思います。

重症度と緊急度の二つの軸
  1. 「重症度」高い、「緊急度」高い
    • 重症外傷:特に迷うことなく全力投球
    • 心肺停止:特に迷うことなく全力投球
    • 少し胸が苦しいと言う症状で受診した心筋梗塞:実は患者が経験する症状は様々です。このケースではすぐさまの治療が必要で適切に対応しないと不整脈、心不全に至ってしまいます。私たちは気が気でないですが、「なんでそんなに先生焦ってるんだろう」と患者さんは感じます。
  2. 「重症度」高くない、「緊急度」高い
    • 少し分類が難しいですが、低血糖や鼠径ヘルニア嵌頓(かんとん)があります。要するに「適切なタイミングで適切な処置ができればとりあえずは様子を見ても大丈夫」という場合です。
    • 低血糖:糖尿病の治療が効きすぎると低血糖になります。症状は手の震え、動悸などがあり、最終的には全く反応がなくなります。ただ血糖を補充してあげると1-2分で状態は改善します。
    • 鼠径ヘルニア嵌頓:いわゆる脱腸です。立ち上がったり息んだりすると足の付け根がボコッと膨らみます。普段は簡単にもとに戻りますが、場合によっては戻らなくてとてもお腹が痛くなったり嘔吐したりします。適切にもとに戻せれば症状はすぐに治ります。
  3. 「重症度」高い、「緊急度」高くない
    • 私は「今すぐに何かする必要はないが放置してもいい問題ではない」と説明しています。
    • 心不全、腎不全:悪化すると不整脈や透析になりかねないが、適切に治療をしてコントロールしていきます。
    • 症状はない高血圧、糖尿病:あくまでも一例になりますが、「血圧180/100mmHg」「HbA1c10%」の場合です。合併症リスクは大きいが、今日の救急対応よりも明日からの内服開始と生活改善が主戦場になります。
    • 早期発見されたがん:病名としてのインパクトは大きいが、数日〜数か月で治療計画を立てて対応する時間的余裕があります。
  4. 「重症度」高くない、「緊急度」高くない:軽い擦り傷など

じゃあ、患者さんはどうすればいい?

医師は物語の続きが気になって「様子を見ましょう」と言っています。では読者である患者さんの側は、その待っている間に何ができるでしょうか。「様子を見ましょう」と言われたとき、不安をそのまま持ち帰らないためにできることがあります。

「どのくらいの期間、様子を見ればいいですか?」と聞く。 (=重症度を再評価するタイミングはいつか)

これだけでかなり安心できます。「1週間くらい」「2〜3日で変わらなければまた来てください」といった目安がもらえるはずです。もし具体的な期間を言ってもらえなかった場合は、「1週間後にまた来た方がいいですか?」のように自分から期限を提案してみてください。

「こういう症状が出たら来た方がいいですか?」と聞く。 (=緊急度が上がるサインは何か)

医師の頭の中には「これが出たら再受診」というラインがあります。それを共有してもらうだけで、家に帰ってからの不安がまったく違います。逆に「どういった症状があってどれくらいで落ち着きますか」と起こりうることを聞いてみたり「どんな症状があれば来た方がいいですか」と聞いてみるのがいいでしょう。

症状のメモをつけておく。

次の受診のときに「いつからどう変わったか」を伝えられると、医師は非常に助かります。口頭で「なんとなく良くなったような…」よりも、「3日目から熱は下がったけど咳だけ残っている」の方が、次の判断材料としてずっと役に立ちます。

参考文献・引用元

本記事は以下の資料を参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。

*1 初診で診断名がつかない患者の割合に関する研究:Rosendal M, et al. (2015) Scand J Prim Health Care. [PubMed

*2 原因不明の症状で受診した患者の診断に関する研究:Kroenke K, et al. (1989) Am J Med.[PubMed

あとがき

最後まで読んでいただきありがとうございます。

ここは教科書では教えてくれない明確に経験が出るところと思っています。私も初期は全ての症状に優先順位をつけられずによく「それ急ぎの要件ですか」と上級医に言われたことを思い出します。

「様子を見ましょう」は決して「何もしません」という意味ではありません。医師なりの根拠があって今は見守ることがベストだと判断した結果です。ただその判断の中身がうまく伝わっていないことが多いのも事実です。これは患者さんの理解力の問題ではなく、限られた時間の中で十分に伝えきれていない医療者側の課題でもあると感じています。この記事が診察室では伝えきれなかった「あと一言」の代わりになれば嬉しいです。

これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

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