【医師が解説】コレステロールが下がらないのは遺伝のせい?「家族性高コレステロール血症」を知っていますか

フライドポテトが山盛り 脂質異常症

この記事は脂質異常症についての理解を深めていただくことを目的としています。ご自身の判断で薬の服用を中止したり、量を変更したりすることは絶対におやめください。

最終的な治療方針は、必ず主治医とよく相談の上で決めてください。この記事が主治医との会話をより実りあるものにするきっかけになれば嬉しいです。

脂質異常症シリーズの基礎編では「コレステロールとは何か」「なぜ治療が必要なのか」を、治療編では「どんな薬があるのか」をお伝えしてきました。

今回は、基礎編で少し触れた「家族性高コレステロール血症(FH)」を詳しく取り上げます。

「食事も気をつけている、運動もしている、なのにLDLコレステロールが全然下がらない――」

もしそんな経験があるなら、それは努力が足りないのではなく、体質、つまり遺伝が関係しているのかもしれません。FHは約300人に1人と意外に多い遺伝性の疾患ですが、診断されていない方がとても多いことが問題になっています。

この記事ではFHとは何か、どう見つけるのか、なぜ早く知ることが大切なのかを解説します。

家族性高コレステロール血症(FH)とは? ―「ゴミ収集車が足りない」病気

FH(Familial Hypercholesterolemia)は、生まれつきLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を体から取り除く仕組みに異常がある遺伝性の病気です。

基礎編でお伝えしたように、LDLコレステロールは血液中で増えすぎると血管の壁に溜まり、動脈硬化を進めます。通常、LDLコレステロールは肝臓の表面にある「LDL受容体」というタンパク質に取り込まれて回収・処理されます。

イメージとしては、ゴミ収集車の数が生まれつき少なかったり、うまく動かなかったりします。そのためどれだけ食事に気をつけても血液中のLDLコレステロールが高いまま下がりにくいのです。

FHは常染色体顕性遺伝(以前は「優性遺伝」と呼ばれていた形式)をとるため、片方の親から変異した遺伝子を受け継ぐだけで発症します。有病率は約300人に1人と言われており、混雑した電車1両が150-200人なので朝の通勤電車2両に1人はいる計算になります。

なぜFHを早く見つけることが大切なの?

ここが一番お伝えしたいポイントです。

基礎編で「脂質異常症はサイレントキラー」とお伝えしましたが、FHではそのリスクがさらに大きくなります。一般的な脂質異常症では中高年以降に動脈硬化が問題になりますが、FHの場合は20代〜30代、場合によっては10代から血管にダメージが蓄積していることがあります

治療を受けずに放置した場合、男性は30〜50代、女性は50〜70代で心筋梗塞や脳梗塞などのASCVD(動脈硬化性心血管疾患)を発症するリスクが高いとされています。

つまり「まだ若いから大丈夫」とは言えない病気です。逆に言えば、早い段階で見つけて適切な治療を始めることで、動脈硬化の進行を遅らせ将来の心筋梗塞や脳梗塞を予防することができます。「見つけた時が一番早いタイミング」です

こんな方はFHかも? ― 診断の3つのポイント

以下の3項目のうち2つ以上を満たすとFHと診断されます。基礎編の診断基準の表でも簡単に紹介しましたが、ここで詳しく見ていきましょう。

項目診断基準
① LDLコレステロール未治療時 180 mg/dL以上
② 身体所見腱黄色腫(けんおうしょくしゅ)またはアキレス腱の肥厚
③ 家族歴血のつながった家族にFHまたは早発性冠動脈疾患がある

① LDLコレステロールが180 mg/dL以上

基礎編でお伝えした脂質異常症の基準は「140 mg/dL以上」でした。FHの診断基準はそれよりもさらに高い180 mg/dLです。健康診断の結果でこの値を超えている方は一度FHの可能性を疑ってみてください。

② 腱黄色腫(けんおうしょくしゅ)またはアキレス腱の肥厚

手の甲や肘、膝の腱にコレステロールが沈着して黄色い膨らみができることがあります。これを腱黄色腫と言います。特にアキレス腱が太くなる(約1㎝;超音波検査で8.0mm以上、またはX線で9.0mm以上)のはFHに特徴的な所見です。

あまり「アキレス腱が太い」と聞いてもピンとこないかもしれません。難しければ病院で尋ねてみましょう。比較的簡単に評価ができます。

③ 家族にFHまたは早発性冠動脈疾患がある

血のつながった家族に若くして心筋梗塞や狭心症を起こした方がいる場合、FHの可能性が高まります。基準上は、親、兄弟姉妹と比較的近しい家族になります。また「若くして」の目安は、男性55歳未満、女性65歳未満です。

「うちの家系はコレステロールが高い人が多いんだよね」と思い当たるご家族は、まさにこの項目に該当する可能性があります。ぜひ「誰が」「いつ」「どんな病気」をしたか教えていただけるととても助かります。

「コレステロールが高い」だけでは見逃される ―― FHの診断の壁

FHの大きな問題の一つは、診断されていない方が非常に多いことです。

300人に1人という有病率から推定すると日本には推定約40万人のFH患者がいると考えられていますが、実際に診断を受けている方は1%未満と報告されています。つまり、99%以上の方が自分がFHであることを知らない可能性があるのです。

その理由は健康診断で「コレステロールが高い」と指摘されても、「食事に気をつけましょう」で終わってしまうケースが多いからです。FHは食事だけでは十分にコレステロールが下がらないため、「頑張っているのに下がらない」と悩んでいる方の中にFHが隠れている可能性があります。

FHの治療 ―― 薬なしでは難しい、でもしっかり効く

FHの治療も一般的な脂質異常症と同様に生活習慣の改善+薬物療法が基本です。ただし、FHでは薬物療法の重要性がより高くなります。

治療編で詳しくお伝えしたスタチン(LDLコレステロールを下げる薬の代表格)が治療の柱です。多くの場合、より強力な「ストロングスタチン」(アトルバスタチン、ロスバスタチンなど)が選ばれます。

それでも目標値に達しない場合は、ほかの薬を使用することがあります。

大切なのは、FHは一生涯にわたって治療を続ける必要があるということです。コレステロールの値が下がったからといって自己判断で薬をやめてしまうと、再び値が上昇してしまいます。「薬が効いている=薬が必要」ということです。お薬について詳しく知りたい方は、治療編の記事もぜひご覧ください。

ご家族にも伝えてください ―― FHは「家族で向き合う」病気

FHが遺伝性の病気であるからこそ、もう一つ大切なことがあります。

もしあなたがFHと診断されたら、ご家族(特にお子さんや兄弟姉妹)にも検査を勧めてください。FHの遺伝子変異を持つ親からは、50%の確率で子どもに遺伝します。お子さんが早いうちに診断を受ければ、若いうちから適切な対策を取ることができます。

「コレステロールが高い家系」という認識があるご家族は一度まとめて健診を受けてみることをおすすめします。FHは一人で抱える病気ではなく、家族で知って、家族で予防する病気です。

主治医への相談のヒント

以下のような場合は、次の受診時にぜひ主治医に聞いてみてください。

「食事に気をつけているのにLDLが180を超えています。家族性のものでしょうか?」
→ FHの可能性を検討するきっかけになります。

「父(母)が若いときに心筋梗塞になっています。自分も検査したほうがいいですか?」
→ 家族歴は診断の重要な手がかりです。

基礎編でお伝えした「自分のリスク区分」「LDLコレステロールの目標値」と合わせて、FHの可能性についても主治医と話してみてください。

参考文献・引用元

本記事は以下のガイドラインを参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。

【参考ガイドライン】

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あとがき

最後まで読んでいただきありがとうございます。

FHに関して初めて学んだときは、「こんなにいるのか」が率直な感想でした。健康診断でLDLコレステロールが180を超えている人や薬を処方しているのにうまく下がらない人には積極的に話をするようにしています。当時はなぜか妙にアキレス腱を重視しておりよく触っていました。もちろん説明はしていましたが、患者さんの立場になって考えると「コレステロールの相談をしにきたのにアキレス腱を見られる」という少し不思議な状況だなと思います。

また私としては見つけることは大きなメリットがあると思います。それは兄弟姉妹、両親、子ども、その子どもと、芋づる式に診断がつく可能性が高いことです。もちろん病気をしないに越したことはありませんが、「早めに診断、早めに治療」を心がければ必要以上に恐れる必要はないと思います。

※このことを医学用語ではカスケードスクリーニング(cascade screening)と呼びます。

これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

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