健康診断を受けたときに「コレステロールが高いですね」と言われた経験がある方は多いかもしれません。実はこれはとても一般的な指摘で、日本(令和6年国民健康・栄養調査)においては、悪玉コレステロールが基準値を大きく超える人は12人に1人と言われています。つまり健康診断で「コレステロールが高いですね」と言われる人はさらに多いことがわかります。
「コレステロールが高い=すぐに危ない」と思う方もいれば、「きっと大丈夫」と気に留めない方もいるでしょう。しかし、脂質異常症も「サイレントキラー」と言われており、症状がないまま血管を傷めていく怖い側面があります。
このページではコレステロール値が高いと言われたときに知っておきたい基礎知識をお伝えします。自分の体を理解することが、予防と治療の第一歩です。
自分の言葉で説明できるようになろう。脂質異常症とは。
「脂質異常症」という病名を聞いたことがない方も多いかもしれません。実は、この病気の名前は2007年まで「高脂血症(こうしけつしょう)」と呼ばれていました。
「高脂血症」から「脂質異常症」へ:
なぜ名前が変わったのか? 昔は「血液の脂肪が高い」ことが問題だと考えられていました。ところが研究が進むにつれて、「善玉コレステロールが低い場合も、実はリスクになる」ことが分かってきたのです。そこで、2007年に日本動脈硬化学会が病名を変更しました。
簡単に言うと、脂質異常症は「血液の中の脂肪のバランスが悪い状態」のことです。
コレステロールの種類と役割
- LDLコレステロール(悪玉コレステロール)
- HDLコレステロール(善玉コレステロール)
- トリグリセリド(中性脂肪)
横文字が増えて一気にわかりづらくなりましたね。中性脂肪はイメージがつきやすいですけど、LDL・HDLはなかなか馴染みがないと覚えにくいと思います。
LDLの「L」は Low(低いほうがいいイメージ=悪玉)
HDLの「H」は High(高いほうがいいイメージ=善玉)
このようなイメージで覚えてもらうのがいいと思います。ちなみに正式名称はLDL(Low Density Lipoprotein)、HDL(High Density Lipoprotein)です。なんと本当にLow、Highなのでした。
LDLコレステロール(悪玉コレステロール)
LDLは肝臓から体の細胞へコレステロールを運ぶ役割を果たします。しかし、血液中で酸化したり増えすぎたりすると、血管の内膜に潜り込んで動脈硬化を引き起こします。
治療の目標値が重要視される理由はこのLDLコレステロール値が最も重要だからです。「悪玉」と呼ばれるのは、動脈硬化を進める主な原因物質だからです。
HDLコレステロール(善玉コレステロール)
HDLは血管に溜まった余分なコレステロールを回収して、肝臓へ戻す「お掃除役」です。血液中のHDLが少ないとコレステロール回収がうまくいかず、動脈硬化が進みやすくなります。
つまり、LDLは低いほどよくHDLは高いほどよいのです。
トリグリセリド(中性脂肪)
トリグリセリドは、体のエネルギー源として使われる脂肪です。食事から摂取したり、糖質やアルコールから作られたりします。高すぎると、LDLを増やしたりHDLを減らしたりして動脈硬化のリスクを高めます。
コレステロール運搬の仕組み:「ゴミ収集」のたとえ
LDLコレステロールは「ゴミ収集車」のようなもの。コレステロールを肝臓から体の細胞に運びます。ところが、運びすぎたり古いLDLが酸化したりすると、血管の壁に引っかかってゴミのように溜まってしまいます。
対して、HDLコレステロールは「お掃除車」。血管に溜まった余分なコレステロールを回収して、肝臓に戻す役割をしています。

診断基準:あなたは大丈夫?
血液検査で何をどこまで調べるかが大切です。以下の基準に当てはまると、脂質異常症と診断されます。ぜひ検査結果があれば照らし合わせてください。
| 項目 | 診断基準 | 分類 |
|---|---|---|
| LDLコレステロール | 140 mg/dL以上 | 高LDL-C血症 |
| 120~139 mg/dL | 境界域高LDL-C血症 | |
| HDLコレステロール | 40 mg/dL未満 | 低HDL-C血症 |
| トリグリセリド (空腹時) | 150 mg/dL以上 | 高TG血症 |
| トリグリセリド (随時) | 175 mg/dL以上 | 高TG血症 |
※空腹時の血液検査で測定されることが一般的です。
なぜ治療が必要なのか?~ASCVD予防~
ここが重要なポイントです。
高いコレステロールが血液中にあると、血管の内側に少しずつ沈着していきます。そこに免疫細胞が集まり、やがて血管が厚くなって血液の流れが悪くなっていきます。これが動脈硬化です。
動脈硬化が進むと、以下のような深刻な病気が起こります:
- 心筋梗塞・狭心症:心臓に血を送る冠動脈が詰まる
- 脳梗塞:脳に血を送る血管が詰まる
- 末梢動脈疾患:足の血管が細くなる
- 大動脈瘤:大動脈の壁が弱くなる
これらの病気をまとめてASCVD(アテローム動脈硬化性心血管疾患;エーエスシーブイディー)と言います。脂質異常症の治療は「コレステロール値を下げること」ではなく、「ASCVDの予防」が本当の目的なのです。
遺伝が関係することも~家族性高コレステロール血症~
コレステロール値が「異常に高い」場合、遺伝的な原因がないか調べることが大切です。
家族性高コレステロール血症は、遺伝子の異常が原因で、極度に高いコレステロール値を示す病気です。一般人口では約300人に1人の頻度で見られると言われており、比較的ありふれた遺伝病です。
診断には、以下の3項目のうち2項目以上が必要です:
| 診断項目 | 基準 |
|---|---|
| ①未治療時のLDLコレステロール | 180 mg/dL以上 |
| ②身体所見 | 腱黄色腫 or アキレス腱肥厚 |
| ③家族歴 | FHの家族歴 or 若年性冠動脈疾患の家族歴 |
家族性高コレステロール血症は治療を開始する時期が非常に重要です。若いうちから適切に治療しないと、20~30代で心筋梗塞を起こす可能性があります。「コレステロールが異常に高い」と言われたら医師に相談しましょう。
リスクの高さに応じた治療目標
治療はコレステロール値の数字だけでは決まりません。
ここが一番大事なところです。
糖尿病と同じで治療を「する」「しない」を決定するのはコレステロールの値だけではありません。あなたが心筋梗塞や脳梗塞になるリスクが「低い」のか「高い」のか、それによって治療方針が変わります。
リスク評価に使う情報
- 二次予防:既に心筋梗塞や脳梗塞を起こしたことがある
- 糖尿病の有無:特にインスリン治療中、又は合併症のある場合
- 慢性腎臓病(腎臓の値が悪い)の有無
- 末梢動脈疾患(足の血管が細くなる)の有無
- 年齢と性別:一般的に年を重ねるほどリスクが高い
- 血圧:高血圧があるとリスクが上がる
- 喫煙:喫煙はかなりのリスク要因
これらの情報をもとに、「低」「中」「高」とリスク分けします。
リスク区分と治療目標値
| リスク区分 | LDL-Cの目標値 |
|---|---|
| 低リスク リスク要因が少ない | <160 mg/dL |
| 中リスク | <140 mg/dL |
| 高リスク 複数のリスク要因あり | <120 mg/dL |
| 二次予防 既に心筋梗塞や脳梗塞を起こしたことがある | <100 mg/dL(<70 mg/dLの場合もあり) |
つまり、心筋梗塞を起こしたことがある人と全く健康な人では、目指すLDL値が全く異なるのです。
「私のリスクはどれくらいですか?」「私のLDLコレステロールの目標値はいくつですか?」
あなた自身のリスク区分と、目標とするLDL値をぜひ主治医に確認してみてください。
治療の「主役」は圧倒的にLDLコレステロール
ここまで読んでいただいた方はふと疑問に思ったのではないでしょうか。
「後半はほとんどLDLコレステロール(悪玉コレステロール)の話しかしてなくない?」
その通りです。私も中性脂肪やHDLコレステロール(善玉コレステロール)の話をしていないなと思っていたのでここで補足させてください。日米欧のすべてのガイドラインにおいて、心筋梗塞や脳梗塞を防ぐための1番の目標は「LDLコレステロールを下げること」とされています。数値を下げれば下げるほど確実にリスクが減ることが証明されており、LDLコレステロールに関して重点的に話をしてきた理由です。
もちろん中性脂肪やHDLコレステロールも大事ですが、「まずは」LDLコレステロールの目標を達成することを目標にしてください。大体治療を始めると一緒に改善することが多いです。LDLコレステロールの目標を達成しても、まだ中性脂肪が高いといったことがあれば主治医に相談してみるのがいいと思います。
参考文献・引用元
本記事は以下のガイドラインを参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。
【参考ガイドライン】
- 日本動脈硬化学会『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』
- 日本動脈硬化学会『成人家族性高コレステロール血症診療ガイドライン2022』
- 厚生労働省『令和6年 国民健康・栄養調査』
- 米国心臓病学会/米国心臓協会(ACC/AHA)ほか『2018年 血中コレステロール管理ガイドライン』
- 欧州心臓病学会(ESC)ほか『2019年 脂質異常症管理ガイドライン』『2025年 一部アップデート』
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます。
コレステロールは国によって考え方が変わっておりとても面白いです。日本やヨーロッパは「目標設定型」、アメリカは「リスク重視型」です。
「目標設定型」:最初に目標を決めて食事運動を見直し、薬を飲んだりしてゴールを目指す方法になります。あとどれくらいで目標達成かがわかりやすくモチベーションを保ちやすいです(※ただしヨーロッパは日本よりさらに目標が厳しい)。
「リスク重視型」:リスクに応じて飲む薬の強弱を決め、そのまま飲み続ける方法になります。「一番実績のある薬をしっかり飲むこと」そのものを重視する、シンプルで合理的な考え方です。
「コレステロールを下げることが、脳梗塞、心臓病の予防につながる。」という考え方が根本にあって、あくまでも手段の問題ですのでどちらが正しいというものではありません。このような国によっての違いなんかは調べていても楽しいので共有していければと思っています。治療に関しては次回で話していきます。
これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

