「禁煙したら太った」の正体

タバコが転がっている つぶやき

外来で禁煙指導をしていると、患者さんからこんな言葉をよく聞きます。

「タバコやめたら5キロ太りました。これじゃ禁煙した意味ないんじゃないですか?」

先日もまさにそういう患者さんを診察しました。禁煙して1年、体重は正常範囲を超えてはいないが5kg程度体重が増えていました。この質問に対して調べてみたところ興味深いことがわかったのでまとめてみました。

確かに糖尿病のリスクは一時的に上がる*1

まずはちょっと気になる結果から。禁煙した人はタバコを吸い続けている人と比べて、禁煙後数年間は糖尿病になるリスクが約2割ほど高くなっていました。体重が大きく増えた人ほどそのリスクは高く、10kg以上増えた人では約6割増し(1.6倍)にまで達していました。

ただしここが重要なポイントで、このリスク上昇は禁煙後5〜7年をピークに徐々に下がっていき、やがて消えていきました。あくまで「一時的な」リスク上昇ということになります。しかも、体重が増えなかった禁煙者では糖尿病リスクの明らかな上昇は見られませんでした。つまり、禁煙後の糖尿病リスク上昇の大部分は体重増加で説明できると考えていいでしょう。

それでも心臓・血管の病気で死ぬリスクは大幅に下がる

ここからが本題です。

心臓や血管の病気(心筋梗塞や脳卒中など)で亡くなるリスクは、体重が増えても、禁煙した人はタバコを吸い続けた人より一貫してリスクが低かったことがわかりました 5kg太ろうが10kg太ろうが、禁煙の「命を守る効果」は揺るがなかったのです。

一言でまとめるなら、「太っても禁煙した方がずっといい」と言えます。

そもそもなぜ禁煙すると太るのか

よく「禁煙すると口が寂しくなって食べてしまう」と聞きますが、こちらに関しても調べてみたところ、実は根深い体の変化が関わっているということがわかりました。仮設レベルの話もあるのであくまでも参考に読んでもらえればと思います。

①基礎代謝が落ちる+食べる量が増える。 ニコチンには体の代謝を7〜15%ほど底上げする作用があり、簡潔にいうとタバコを吸っているだけで「余分にカロリーを燃やしている」状態だったというわけです。禁煙するとこのボーナスが消えるので、同じ量を食べていても太りやすくなります。加えて、ニコチンには食欲を抑える作用があり、禁煙するとそのブレーキが外れて食べる量が増えます*2

②脳が「ご褒美」を欲しがる。 禁煙後に食べる量が増えるだけでなく、甘いものや脂っこいものが無性に欲しくなるという人は多いです。これは脳の「報酬系」と呼ばれる仕組みが関わっていると考えられており、タバコで得ていた快感が失われると脳はその代わりとなる「ご褒美」を食べ物に求めるようになります。動物実験ではその詳しい仕組み(脳内の快楽物質であるドパミンが減少し、それを埋め合わせるために高カロリーな食べ物を欲する)が解明されつつありますが、ヒトの脳で全く同じことが起きているかはまだ研究の途中です。ただ「禁煙後に甘いものや脂っこいものが食べたくなる」という現象自体は経験したことがある人も多いのではないでしょうか。

③腸内環境が変わる。 近年になって言われるようになったことで、禁煙後に腸内細菌のバランスが大きく変わり、太りやすい人に特徴的なパターンに近づくという研究データが出てきました。簡単に言えば、「同じものを食べても、腸がカロリーをより多く吸収してしまう」状態になるということです。ただし、この内容は主にマウス実験から得られたもので、ヒトの禁煙後の体重増加にどの程度関わっているかはまだわかっていない部分が多いです*3

つまり、禁煙後の体重増加は「だらしないから太る」という単純な問題ではないということがわかりました。

ただし注意すべき点もある

ここまで読むと「太っても全然問題ない」と言い切りたくなりますが、いくつか知っておくべきこともあります。

糖尿病のリスク上昇は一時的とはいえ無視できない。 もともと血糖値が高めの方や、メタボリックシンドローム(内臓脂肪が多く、血圧や血糖値が高めの状態)の傾向がある方は、禁煙後の体重増加をきっかけに糖尿病を発症する可能性があります。禁煙と同時に、血糖値の定期チェックや食事・運動の見直しを考えていけるといいです。

どこに脂肪がつくかも大事。 この研究では「体重が何キロ増えたか」しか見ておらず、同じ5kg増でもお腹まわり(内臓脂肪)としてつくのか、全身にまんべんなくつくのかで体への影響は異なってきます。

この研究の参加者は大部分がアメリカの白人だった。 参考にした研究の多くが日本人を含むアジア人ではなく、アメリカ人などの海外のデータになります。全く参考にならないことはありませんが、アジア人は同じ体格でも糖尿病にもなりやすいとも言われており、禁煙後の体重増加の影響がアメリカ人よりも大きい可能性はあります。

「太るから禁煙しない」は正しいか

いろいろ話をしてきましたが、禁煙後に体重が増えたことを理由にまたタバコを吸い始めるのは得策ではないと言っても間違い無いでしょう。

「太るから禁煙しない」「太ったからまた吸う」——そう考えてしまう気持ちはよくわかりますが、患者さんには説明し続けていこうと思います。

参考文献・引用元

本記事は以下の資料を参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。

*1 禁煙での体重変化、2型糖尿病、死亡率に関する研究:Hu Y, et al. N Engl J Med. 2018. [PubMed

*2 禁煙による代謝への影響:Harris KK, et al. Nat Rev Endocrinol. 2016.[PubMed

*3 禁煙が腸内細菌に与える影響:Biedermann L, et al. PLoS One. 2013. [PubMed

あとがき

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私も身内に喫煙者がいるので、禁煙をきっかけに食欲が増えて体重が増えたという話も聞いたことがあります。今回のような「よく言われていること」の中身を深掘りしてみるのは興味深いですし、自分の知らなかったことまで見えてくるので楽しいです。

禁煙を考えている方、禁煙したら体重が増えるのじゃないかと心配されている方にこの記事の内容が届くことを祈っています。

これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

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