「ずっと飲む薬」―数字で見てみる

青い背景にカプセル錠が散らばるイメージ。「ずっと飲む薬」数字で見る つぶやき

この記事は医療情報についての理解を深めていただくことを目的としています。ご自身の判断で薬の服用を中止したり、量を変更したりすることは絶対におやめください。

最終的な治療方針は、必ず主治医とよく相談の上で決めてください。この記事が主治医との会話をより実りあるものにするきっかけになれば嬉しいです。

前回の記事(こちら)でずっと薬を飲まないといけないのか、という記事を書きました。今回はコレステロールを例に挙げて具体的な数字を見ていこうと思います。

コレステロールだけでなく血圧、糖尿病の薬に対してこう感じている方は多いと思います。痛くもかゆくもない。健康診断の数字が悪いだけ。それなのに毎日薬を飲み続けるのは、気が進まない。

その気持ちはよくわかります。ただ今回は感情論ではなく数字で考えてみます。薬を飲むとリスクがどれだけ下がるのか、費用はどのくらいかかるのか、飲まなかった場合に何が起こり得るのか。

あなたのリスクを数字で知る—久山町スコア

今回コレステロールの薬を例に選んだ理由のひとつに、福岡県久山町の住民を60年以上追跡し続けている「久山町研究」という研究があります*1。そのデータをもとに作られたのが久山町スコアです。2022年のガイドラインで正式に採用され、現在の実臨床で使われているリスク評価ツールです。

このスコアは、今後10年間に心筋梗塞や脳梗塞といった動脈硬化性疾患を発症する確率を予測します。日本人のデータに基づいているので、海外のスコアより私たちの実態に合っています。

スコアの計算方法

6つの項目にポイントを割り振って合算します。健診の結果があれば、ご自身でもおおよその計算ができます。

  1. 性別 女性=0点、男性=7点
  2. 収縮期血圧(上の血圧) 120未満=0点、120〜129=1点、130〜139=2点、140〜159=3点、160以上=4点
  3. 糖代謝異常 なし=0点、あり=1点
  4. LDLコレステロール(悪玉) 120未満=0点、120〜139=1点、140〜159=2点、160以上=3点
  5. HDLコレステロール(善玉) 60以上=0点、40〜59=1点、40未満=2点
  6. 喫煙 なし=0点、あり=2点

※糖尿病や慢性腎臓病がある方はスコアに関わらず高リスクに分類されます。

※過去喫煙者(現在吸っていない方)は「なし」として計算します。

合計点と年齢帯から、10年間の心筋梗塞、脳梗塞の発症確率がわかります。

合計点数と10年間の発症確率

合計点40〜49歳50〜59歳60〜69歳70〜79歳
0<1.0%<1.0%1.7%3.4%
5<1.0%1.4%3.4%6.9%
81.1%2.2%5.2%10.4%
101.4%3.0%6.9%13.6%
121.9%3.9%9.1%17.7%
142.6%5.2%11.9%22.9%
153.0%6.0%13.6%25.9%
173.9%7.9%17.7%33.0%
195.2%10.4%22.9%41.1%

(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版 図3-2 より作成*2。2%未満:低リスク、2〜10%未満:中リスク、10%以上:高リスク)

脂質異常症に関してはこちら(基礎編治療編

モデルケースで考えてみる

患者Aさん(63歳・男性)

  • LDLコレステロール:160mg/dL、HDLコレステロール:45mg/dL
  • 収縮期血圧:135mmHg
  • 糖代謝異常:なし
  • 喫煙あり

健診では「要治療」が並ぶけれど、本人は「元気だし大丈夫だろう」と思っており、外来でもよくお会いするタイプです。

スコアを計算すると、性別7+血圧2+LDL3+HDL1+喫煙2=合計15点。60~69歳の表で見ると、10年間の発症確率は13.6%。同じ条件の人が100人いたら、約14人が10年以内に心筋梗塞か脳梗塞を起こす計算です。

これは「自覚症状がない」状態で抱えているリスクです。

薬を飲むとどう変わるか

スタチンでLDLが160→120未満に下がると、LDLの点数が3→0点になり、合計12点。10年リスクは9.1%

さらに禁煙(2→0点)を加えると合計10点。10年リスクは6.9%

13.6% → 9.1% → 6.9%

このモデルケースでは、薬と禁煙で、スコア上はもとのリスクのおよそ半分まで下がります。

なお、運動習慣はこのスコアの計算項目には含まれていませんが、動脈硬化の進行を抑える効果は多くの研究で示されています。スコアに表れない部分でも生活習慣の改善には意味があります。

予防のコストと、発症後に失うもの

薬を飲み続けた場合のコスト

スタチンにはジェネリックがあり、3割負担で月々の薬代はおよそ1,000〜3,000円。定期的な血液検査を含めて、年間で約2〜5万円です。10年続けても20〜50万円。月額にすれば数千円程度の出費です。

発症したら何が起こるか

心筋梗塞や脳梗塞で入院した場合、医療費の総額は数百万円に達することがあります。日本には高額療養費制度があり、月ごとの自己負担には上限が設けられているため医療費そのものは一定額(数万~数十万/月)に抑えられます。

ただし、この制度でカバーされるのは医療費の部分だけです。入院中の食事代や差額ベッド代は別途かかりますし、脳梗塞のように入院が長引けば月ごとの上限額が積み重なります。

そして何より大きいのは、お金では測れない部分です。脳梗塞では片麻痺や言語障害といった後遺症が残ることがあり、リハビリは年単位になります。仕事を休む、あるいは続けられなくなるリスクもあり、心筋梗塞でも退院後の生活制限や再発の不安を抱えながらの日々が始まります。

年間数万円の予防コストと受診の時間、発症後に失うかもしれないもの。この天秤まで考えて薬を飲むという選択をどうとらえるかはその人次第です。

おわりに

「自覚症状がないのに薬を飲むのは、気持ちとしてハードルが高い」、それは理解できます。

でも脂質異常症の怖さはまさに「自覚症状がないこと」です。今回は脂質異常症が一番数字として説明しやすかったので挙げましたが、高血圧や糖尿病でも同じような考え方になります。

自分のリスクを知り、薬でどれだけ変わるかを理解したうえで「飲む」と決めるのと、「よくわからないけど先生に言われたから飲む」のとでは、10年続ける意味がまったく違います。次の受診のとき、「自分のスコアはどのくらいですか?」と聞いてみてください。

参考文献・引用元

本記事は以下の資料を参考に、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。

*1 久山町研究:Honda T, et al. J Atheroscler Thromb. 2022. [PubMed

*2 日本動脈硬化学会『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版

あとがき

最後まで読んでいただきありがとうございます。

今回は数字を前面に出して記事を作ってみました。ただ私は普段からあまりリスク計算して話すことは多くないです。というのも、過去の経験で高リスク(10%程度)の方だったのですが、「リスクはそれくらい(低いもの)なんですね」と言われてしまったことがあります。

10人に一人というと低く感じるのは納得できますが、その代償は心筋梗塞や脳梗塞となります。そのとき、病気に対するイメージが医療職と一般の方でこれほど違うのかと実感しました。なので、それ以降あまり数字で語ることを控えるようにしました。

有名な投資家であるウォーレン・バフェットの講演では「心と体を一生に一度しかもらえない車」と例えられています。どんな事故(病気)を起こしても乗り換えられない車に例えて、メンテナンスの重要性を伝えるものです。もちろんメンテナンスをしても事故(病気)に遭うこともありますが、私の中ではかなりしっくりくるたとえ話だと思っています。皆さんにとってはどうでしょうか。

これからも一緒に学んでいきましょう。それではまた次回。

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